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「圧倒的不足」のSEP船、日本郵船が運航へ

「圧倒的不足」のSEP船、日本郵船が運航へ

導入する自航式SEP船のイメージ(バンオード提供)

日本郵船洋上風力発電設備の設置や保守点検作業をする自航式の自己昇降式作業台船(SEP船)を2026年にも保有・運航することを決めた。新造船なら日本の海運会社として初の発注となる。大型風車の設置に対応する最大揚重能力1000トン以上のクレーンを想定。日本船籍船とし、今後建設が本格化する秋田県沖などでの洋上風力発電の関連事業に従事する。

20年に提携したオランダの海洋土木大手で、洋上風力発電プロジェクトの実績の豊富なバンオードとの合弁会社により日本籍SEP船を保有・運航する。新造船か既存船を購入するかは今後詰める。

日本郵船はグループで約800隻の船舶を運航する。またバンオードをはじめ、洋上風力関連の欧州企業と相次ぎ提携し、事業化調査から資機材の輸送、風車の設置、保守に至るまでのバリューチェーン(価値の連鎖)を構築。海外での事業展開も想定する。

日本郵船は22年2月に秋田県と再生可能エネルギー事業の推進と関連人材の育成などを目指す包括連携協定を締結。4月には国内支店としては59年ぶりとなる秋田支店(秋田市)を開設した。24年度には秋田県に洋上風力発電メンテナンスや作業船業務に関連する総合訓練センターを設立し、専門人材の育成を始める。

秋田県沖は国の定める洋上風力発電の「有望な区域」に選定され、26年ごろに発電設備の建設工事が本格化する予定だ。政府は50年のカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向け洋上風力の導入拡大を目指す。30年までに1000万キロワット、40年までに3000万―4500万キロワットの導入を目標に掲げる。

SEP船「圧倒的に不足」、ゼネコン大手の投資相次ぐ

SEP船をめぐっては、ゼネコン大手が相次ぎ投資に踏み切っている。清水建設は約500億円を投じた自航式のSEP船を10月に竣工(しゅんこう)、2023年3月にも実際の工事を始める。鹿島が五洋建設などと建造するSEP船は23年4月の稼働を予定するほか、大林組と東亜建設工業が建造中のSEP船も同時期に完成する見通し。

背景には国内で計画されている洋上風力発電の件数に対する「圧倒的なSEP船不足」(ゼネコン大手)がある。先行する欧州では多くのSEP船が運用されているが、地元や他国のプロジェクトがめじろ押しで「日本が確実に用船できるかは分からない」(同)ことから、自ら建造する必要に迫られた格好だ。国内外の土木・建築工事で培った高い技術力を発揮できるという優位性もある。

国内建設需要が中長期で縮小する中、洋上風力がゼネコンの“新領域”として定着できれば韓国や台湾などアジアの需要を開拓できる可能性も広がる。清水建設の関口猛専務執行役員は「(まずは)国内で建設工事を完結できる能力を持たないといけない」と話す。

日刊工業新聞 2022年10月26日

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