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「本業は自動車部品」「新規事業はブロックチェーン」「行動方針は『バカになろう!』」果たしてその狙いは?

「北川烈のモーレツ!会社訪問記」―ソミックマネージメントホールディングス①
「本業は自動車部品」「新規事業はブロックチェーン」「行動方針は『バカになろう!』」果たしてその狙いは?

ソミックマネージメントホールディングス取締役の石川彰吾さん(右)にモーレツに説明を受ける私、北川。

インターネットには「優良企業」の紹介があふれている。クリックひとつで調べられるし、SNSにも企業の面白い取り組みが転がっている。だが、目で見て触って初めてわかるものもある。スタートアップの経営者である北川烈もそう考えるひとりだ。北川のアンテナにひっかかった企業にモーレツに切り込む本連載。1回目は創業100周年をこえる自動車部品メーカーのソミック石川を中核とするソミックマネージメントホールディングス(静岡県浜松市)。手堅い企業の印象を受けるが、グループの中には行動指針に「『センリャクテキ』バカになろう!」を掲げたり、ブロックチェーンに出資したりする企業もある。果たしてどこに向かっているのか。

ボールジョイントの見学ではなかったの?

浜松といえば、うなぎパイですよね。ニュースイッチ読者の方にしてみれば、自動車や二輪関連の産業集積地といっった印象でしょうか。

こんにちは、北川烈です。普段はスマートドライブというスタートアップ企業を経営しています。 収益の柱は全地球測位システム(GPS)や加速度センサーを内蔵した車載デバイスの開発と販売です。シガーソケットに取り付けたデバイスを通じ収集した自動車のビッグデータを解析し、走行データを「見える化」します。導入した企業はそれらのデータを管理することで、営業車の事故を減らせ、保険料の削減も実現できます。

デバイス販売とは別に、走行データの収集解析についてノウハウのご相談も多く、ホンダさんや出光興産さんなどとそれぞれプロジェクトが始まっています。

とはいえ、私たちの分析の対象は車に留まりません。「移動」全般です。自社を「移動に関するハードウェアやソフトウェアの開発企業」と位置づけて、損保ジャパンさんとは車を持たない人を想定した保険も研究しました。

 

前置きが長くなりましたが、仕事柄、自動車業界は常にウオッチしていますが当社社員のサトー氏が「面白い会社がある」と鼻息荒く紹介してきたのがソミック石川さん。自動車の安定走行を支える足回り部品のボールジョイントでは国内シェア首位の「隠れたガリバー企業」です。「工場を見せてもらいましょう」とサトー氏と現地に行くと、なぜか眼前には運搬ロボットが。というわけで、現地レポートをどうぞ。

自動運搬ロボット「SUPPOT」。荷台には最大100キログラムまで積載可能でセンサーで認識した人物を自動追従する。

段差も気にせず、走行する。センサーで認識した人物をカルガモのように自動で追う。リモコンによる遠隔操作も可能で荷台には最大100キログラムまで積載可能だ。自動運搬ロボット「SUPPOT」。今年度、レンタルサービスを開始し、すでに建設会社などと契約を結んでいる。将来は完全自律走行型の提供も視野に入れる。

それにしても「なぜ自動車部品メーカーが運搬ロボット?」と疑問が浮かぶ。「足回り部品技術を生かしてアプローチしやすかった背景もありますが、何よりも当社は人間的企業でありたいんですね」。ソミックマネージメントホールディングス取締役の石川彰吾さんは満面の笑みを浮かべる。

「建設現場では人手不足もあり、労働環境はなかなか楽にならない。かといって、テクノロジーの恩恵も受けられていない。それならば自分たちがつくってしまおうと。すべてはここ数年の会社の方針に則っています。われわれは持続可能な社会をつくることに本気で取り組んでいますから」。

近年、あらゆるところで耳にする「持続可能な社会」。ただ、その7文字に込められた思いは企業によって違う。ただただ、時流に乗ってスローガンに掲げる企業もある。

石川さんは続ける。

「世の中に本当に必要とされる存在になるってことですよ」

「変化球ばかり投げるな」の批判

その実現のために社内体制をまず改めた。2017年以降会社変革を続け、持ち株会社化、ホールディングスの下にソミック石川、ソミックアドバンス、アスキー、ソミックワン、ソミックトランスフォーメーション、ソミックエンジニアリングと事業会社をぶら下げた。

ここまでは良くある話だが、同社が興味深いのは姿勢が「きれいごと」ではない点だ。それぞれの会社にビジョンと経営指針があるが美辞麗句は一切並ばない。例えば、新規事業を手がける「ソミックトランスフォーメーション」のビジョンは「希望あふれる未来を形にする元気玉会社」、そしてそれを具体化する行動方針が「『センリャクテキ』バカになろう!」だ。企業がオフィシャルに「バカ」とは、なかなかうたえない。

「大人になると恥ずかしさから行動できないことはありますよね。でも、意図的にバカになればいろいろできるんですよ。誰よりも前のめりになれるんですね」。

世の中に必要にされる企業になれば売り上げも当然、増える。「今、グループの売り上げは800億円ですが、2030年に3000億円を目指しています」。ハードルは低くない。

「もちろん、社内で議論はありました。『自動車産業と同じような巨大産業がどこにあるんだ』とも突っ込まれました。でも、そんな話ではないんですよ。幸いにして足回り部品は内燃機関と違って、電動化でなくなる部品ではありません。.自動車事業を伸ばしながら、100億の事業を10個つくればそれだけで1000億円ですからね」。

同社はもともとは機織り機の部品をつくっていた。外部環境が変われば事業が変わっても不思議ではない。すでにAIやデータビジネスの開発にも乗り出しているが、多角化の感覚は希薄という。

 

「社内では『変化球ばかり投げるな』という人もいましたが、私は『持続可能な社会』を目指してど真ん中の直球を投げているだけなんですよ(笑)。まずは工場を見て下さい」

会社の「シンドイ」、「ツライ」をなくしたい

取材時の気温は30度を超えていたが、鍛造部品を手がける工場内はさらに暑い。

「転職してきて、工場を見学したとき、『これはキツいな』が率直な感想でした。熱を使うので夏場は地獄ですよ」。石川さんとグループ改革を進めるソミックトランスフォーメーション代表取締役の大倉正幸さんはこう振り返る。

「特にツライ」と語るのが品質検査工程。15秒に1個のペースで目視で傷やこすれがないかを確認し、100万分の1の不良品を探し出す。それを1日3交代でチェックし続ける。

15秒に1個のペースで目視で傷やこすれがないかを確認し、100万分の1の不良品を探し出す。作業は過酷だ。

「人によって習熟度も違うし、その日の体調で見逃す可能性だってあります。しんどくて、つらければ少子高齢化でいずれ誰もやらなくなってしまう」。

もちろん、世の中にはAIを使った検査ラインは珍しくない。「それは大企業の議論なんですよ。日本中の大半を占める中堅中小企業が導入するには高すぎるし、使いこなせません」。同社では従来の10分の1程度に価格を抑えた検査システムを開発し、実用化間近だ。外販も視野に入れる。大倉さんは「同じようにしんどかったり、つたかったりしている会社の環境を改善できれば」と語る。

石川さんは「新規事業を手がけている感覚は実はない」と語る。「当社でこれはどうにかできないかなということを解決しているだけなんです。例えば、古い生産設備は電流を測定する機能が付いていません。当社が保有する1000台のうち9割はそうした機能がなく、職人の経験や勘に頼っています。とはいえ、全部を入れ替えるのは現実的ではない。ですから、設備に後付けでデータを測れるモジュールを開発していて、これも外販予定です」。

確かに、中堅中小企業は日本の縮図でもある。「ここで起きていることを解決できたら新しいビジネスにもなるし、日本の課題解決にもなります。そうした課題を技術で克服する社会を目指しています。それが、『ソミックソサエティー』です」。

ソミックソサエティー?ポカンとするサトー氏。ポールジョイントの見学に来たはずなのに、話は思わぬ方向に(つづく)※次回は中堅中小の新規事業の考え方について聞く。

                                (構成 栗下直也)

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