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つくればもうかるFIT終焉…新たな再エネ普及策「FIP」の効果の行方

つくればもうかるFIT終焉…新たな再エネ普及策「FIP」の効果の行方

レノバは100カ所近い非FITの太陽光発電所をつくる(イメージ=同社提供)

再生可能エネルギーの新たな普及策としてFIP(フィードインプレミアム)制度が始まって半年が過ぎた。エネルギー大手各社はビジネスチャンスと期待し、企業も再生エネを調達しやすくなったと歓迎する。FIT(フィードインタリフ)で手厚く保護されてきた再生エネ発電事業者には、市場から選ばれる電源となるための“努力”が求められる。(編集委員・松木喬、同・板崎英士)

【固定から変動価格へ】「環境価値」を取引

FIPの売電価格は火力など他の電源と同じように変動する。対象は一定規模以上の発電設備だ。発電事業者が再生エネ電力を市場(日本卸電力取引所)に売ると、売電価格は市場価格によって決まる。市場価格が高騰していると発電事業者のもうけが増える。逆に市場価格が基準を下回ると国が補助金(プレミアム)を交付し収入減少を抑える。

発電事業者は再生エネ電力の売り先を小売電気事業者にもできる。相対取引となるので売電価格は交渉次第となり、高く買ってもらえるほど事業が安定する。また、相対でも発電事業者は補助金をもらえるので利益を拡大できる。ただし、FIPの発電所は計画通りに電力を供給することが求められる。計画値を外すとペナルティー料を支払うので事業リスクも伴う。

ほかにも、発電事業者が「環境価値」を取引できるのもFITとの違いだ。これまでは国が再生エネ電力から環境価値を分離して「非化石証書」として管理してきた。電気小売事業者は入札で非化石証書を獲得することで再生エネ電力を販売できた。

【エネ会社・企業は歓迎】調達費用最小化できるスキーム

東京ガスは8月、レノバとFIP認定を受けた太陽光発電所の電力を含む電力購入契約(PPA)を結んだ。取引規模は最大1万3000キロワット、期間は20年。

東ガスは4月、非FIT/FIPの発電事業者向けに計画通りの電力供給を支援する需給調整サービスを始めた。その最初の案件だ。購入した電力は相対で企業に販売する。燃料の高騰局面ではFITより市場のスポット価格が高く、十分な収益が確保できる。レノバは100カ所近い非FITの太陽光発電所をつくる。永井裕介執行役員は「太陽光のFIT単価は下落するが、電気の市場価格は上がっている。FIPで競争力のある電源になる。やりたい市場環境になった」と歓迎する。

2021年末、洋上風力発電の一般海域公募、第1ラウンドで三菱商事が3カ所を総取りした。秋田県由利本荘市沖ではFITによる買い取り価格が、他の事業者のほぼ半値という驚きの安さだった。事態を重く見た国は審査条件を変更した。コスモエネルギーホールディングスの桐山浩社長は「FITがFIPに変わるのは大きい」という。FITだと最初の価格を入れ間違えれば事業終了まで赤字が続く。FIPだと最低価格の入札と同じ意味があり、市場価格が割り込んでも最低の利益が保証される。「FITは“気合と根性”で価格を入れたが、FIPとなる第2ラウンドはみな価格が分かって入札する。各社の考え方、戦略が変わるだろう」(桐山社長)と見る。

ソニーグループは早速、FIPの非化石証書を購入して再生エネを活用する。調達先はOTS(名古屋市中区)が建設する太陽光発電所だ。OTSは電力を市場に売るが、非化石証書はソニーに販売する。ソニーは子会社の生産拠点である幸田サイト(愛知県幸田町)が購入した電力に対し、入手した非化石証書を組み合わせて“再生エネ100%電力”を利用する。

複雑な取引に思えるが、電力を購入する需要家である企業にはメリットがある。これまで企業は、非化石証書を持つ小売電気事業者と契約しないと再生エネ電力を使えなかった。FIP後、発電事業者から非化石証書を調達できるようになり、小売電気事業者との契約を変更する手間がなくなった。ソニーEHSグループの井上哲シニアマネジャーは「我々が望んでいた仕組み」と喜ぶ。非化石証書は豊富にあるが、直接入手できない企業には使い勝手が悪かったからだ。

発電事業者にも恩恵がある。OTSは電力を価格が上下する市場に売るが、ソニーとの契約で実質的に固定価格にできる。変動分をソニーが補うイメージだ。OTSの野田光彦氏は「FIPは難解。価格が変動するため発電事業者は尻込みをしてしまう」と心情を語る。実際は補助金によって価格低下を抑えられるが、それでも変動に警戒する。その点、固定価格は安心だ。

また、ソニーとOTSはデジタルグリッド(東京都港区)が開発した取引形態を利用する。需要家が発電事業者を選べる既存のPPAでも固定価格は可能だが、デジタルグリッドの松井英章取締役は「FIPを緩衝材とした」と工夫を明かす。ソニーの井上シニアマネジャーも「現時点で再生エネの調達費用を最小化できるスキーム」と評価する。

OTSの野田氏も「相対取引も安心。発電事業者にとってFIPはチャンス」と付け加える。グローバル企業ほど再生エネを求めており、FIPならソニーのような大企業と取引できるからだ。

【つくればもうかるFIT終焉】“質”が問われる時代

FIPの再生エネ市場への影響は、まだ分からない。電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は「再生エネの種類によってFITが合う、FIPが合う、PPAが合うものがある。半年でのFIPの評価はまだ早い」と語る。

自然エネルギー財団(東京都港区)の石田雅也シニアマネージャーは「金融機関が発電事業者への融資をちゅうちょしている」と心配する。補助金があるとはいえ価格変動はリスクと映り、建設資金の調達ができない事業があるという。相対取引で固定価格で購入する企業と契約できた発電事業者は、変動リスクを回避して資金調達の問題を解決できる。

企業も再生エネの“質”を気にするようになり、森林を強引に開発するなど地元への配慮を欠いた発電所からの電力調達を避けるようになった。建設すればもうかるFITは終わり、コスト削減を含めて質を高める努力をした発電事業者が報われる時代になった。

日刊工業新聞 2022年10月25日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
記事中にもありますが、難しい制度です。簡単に思えて中身が深く、紙幅があり十分な説明ができませんでした。欧州はFIPに移行しています。日本の再エネも「普通の電源」に近づいたということです。ビジネスの自由度が高く、アグリゲーションなど新しいビジネスも登場しています。

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