再起図るスバル「ソルテラ」に待ち受けるリスク
SUBARU(スバル)が電気自動車(EV)「SOLTERRA(ソルテラ)」の再起を図る。トヨタ自動車と共同開発し5月に受注を始めたものの、翌月にリコールで生産・受注を停止。原因調査に時間がかかり、再開まで約3カ月半を要した。同社はEVの生産設備に5年で2500億円を投じ、EVシフトを加速する方針。ソルテラがEV事業を占う試金石となるだけに、巻き返しにつなげられるか注目される。(石川雅基)
「電動化時代でもスバルらしさは高められる」。中村知美社長がこう強調するように、スバルの水平対向エンジンや全輪駆動(AWD)の安定した走りを支持する「スバリスト」からソルテラの走行性能も高く評価され、国内とともに主力の北米でも好調な滑り出しをみせた。
スバルはEVでも走行性能を重視した。例えば雪道や荒れた山道でもAWDの駆動力やブレーキをコントロールすることで、タイヤの空転を防ぐ機能や一定の速度を保つ機能を搭載。モーターの特性を生かした制御技術を導入した。加えて「重心を低く設計したことで、走行時の安定性を高めた」(スバル)という。
ソルテラの開発責任者を務めた商品企画本部の小野大輔プロジェクトゼネラルマネージャーも当初は「想定以上の受注状況」と評価。「(国内外で)政府や消費者の環境意識が急激に高まっているときに一つ選択肢を提示できた」ことを要因に挙げた。
ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹アナリストは「スバルのAWDは北米の降雪地域で高い評価を受けている」とした上で、「得意の北米では環境規制が強まりEV需要が高い。スバルはこうした地域でEVの走行性能が評価される可能性があり、今後も期待できる市場」とみる。
評価が高いソルテラだったが、急旋回などでタイヤのボルトが緩み、脱輪する恐れがあるとして6月にリコールを発表。受注開始から1カ月で出はなをくじかれたが、下期に立て直しを図る。
ただリスクもある。「(スバル車は)高い安全装備を搭載する半面、半導体不足の影響を受けやすい」(中西氏)といい、半導体の安定調達にメドがつかなければ反転攻勢に水を差しかねない。EVを計画通りに供給できるかが当面の課題となる。
加えて同社の生命線である北米市場にも不透明感が漂う。米バイデン政権は8月、気候変動対策への投資拡大などを盛り込んだ歳出・歳入法を成立させた。同法はEV購入者に最大7500ドル(約110万円)の税控除を適用する。ただ、北米生産車のみを対象とするため、日本からの輸出を想定する自動車メーカーには不利になりそうだ。スバルはEVの米国生産も検討しているとみられるが、大きな投資が必要なだけに難しい判断を迫られることになる。
30年までに世界の新車販売の4割以上をEVとハイブリッド車(HV)の電動車にする目標を掲げるスバルにとってソルテラは戦略商品。勝ち筋をいかに見いだせるか、真価が問われる。