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理系強化スタンスの政府、文系大学院でDX新事業の狙い

文部科学省は2022年度新規の「デジタルと掛けるダブルメジャー大学院教育構築事業~Xプログラム~」の採択6大学を決めた。経済・経営学、教育学の分野にデータサイエンス(DS)を取り入れるケースが目立つ。滋賀大学は教育学研究科(教職大学院)で教育DS実践学のエキスパートを養成し、滋賀県教育委員会と連携して専修免許状に付記する仕組みとする。

この事業は人文社会科学などの大学院研究科において、各専門分野と数理・DS・人工知能(AI)の知識・技術を学び、複数分野の要素を含む学位を取得するプログラム構築を支援する。8大学の申請があった。

滋賀大学は経済学研究科でも「経営分析学専攻」新設に動く。経営・市場データを統計的手法で分析し、経営パフォーマンス改善や事業イノベーション推進を行う人材を養成する。岡山大学は教育学研究科に置く新学位プログラムで、デザイン思考や、企業・教育現場との協業によるプロジェクトマネジメントを導入する。

広島大学は「教育」「ソーシャル」のDSプログラムを人間社会科学研究科に、博士後期課程も含めて設置する。九州大学は研究科などの連係課程の枠組みを活用した「人文情報連係学府」を置き、人文情報学を修得できるようにする。

東北学院大学は地元経済界に焦点を絞って、入学者募集や企業・自治体との教育連携を進める。地域経済などのデータに基づいて価値判断ができる社会人の再教育を狙う。名古屋商科大学は海外提携校とのダブルディグリー制度を活用。同大の経営学の修士号と提携校DSの修士号を、同時取得できる仕組みを構築する。

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日刊工業新聞2022年10月13日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
政府は今、教育未来創造会議が初夏に出した報告書に基づき、奨学金をはじめ理系強化の複数の施策に動いている。同報告書でいう理系強化のスタンスは、「文系を減らしてor軽視して」というものではない。「文系人材にも、DSを初めとした理系の素養を身に付けてもらって」という意識が強いのだ。新事業もその一つで、特に政府の狙いにはまるのが滋賀大学だろう。近年、立ち上げたDSの学部・研究科の強みを、既存の教育学と経済学の研究科に波及させる、というのだから。「以前は教育と経済の2学部・研究科だった文系小規模大学で、いち早くDS学部・研究科を立ち上げた」という形で終わらないところが、同大の新たな特色・強みとなるだろう。また地元産業界に焦点を絞った東北学院大と、自校にはない資源をダブルディグリーの海外提携校に求める名古屋商科大学も、モデルとして注目だ。全国学生の約8割を抱え、そのうち文系が8割という私立大学こそが、「理系素養を持つ文系高度人材の育成」で最も伸びしろがあり、期待されるのだから。

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