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不祥事からの再生担う日大新学長の「バランス感覚」

不祥事からの再生担う日大新学長の「バランス感覚」

日本大学の酒井健夫学長

日本大学の前理事長の脱税事件など不祥事を受け、7月1日に就任した酒井健夫学長。約10年前に同大総長を務めての再登板で、作家の林真理子理事長と改革の両輪となる。以前と異なるのは、オンライン講義や学習管理システム(LMS)といった教育デジタル変革(DX)の浸透だ。教学(教育と研究)の「個」の尊重と、総合大学の「全」の一体感を同時に強化し、日大を復興させるという思いを聞いた。

―4月に教職員が厳守する社会への約束、「日本大学規範」が制定されました。
 「一部の経営側の専横により事件が起き、多くの関係者の心を痛めることになった。規範に基づき負を解消するため、プロジェクトを編成し、将来を背負って立つ若い教職員、女性らに参加してもらった。学内外の声に耳を傾ける姿勢が欠けていた点を反省し、謙虚に改革を進めていく」

―トップの体制も通常と異なります。
「教学担当の私は理系で組織人として動いてきたのに対し、経営担当の林理事長は文系で個人の職業人だ。しかし共に卒業生で、本学の再生に向けた強い思いは同じだ。意外に違和感なく、互いをサポートできている。これまで働いていなかった相互チェック機能も発揮していく」

「私は歳を重ねて本学に戻ったが、日本獣医師会副会長など外部の常勤職を務めてきた。それだけに客観的で冷静に、物事を考えられると思う」

―貴学の教育の柱「自主創造」を復興のカギとしています。
「時代によらず今も最も大切なのは、学生らの知的好奇心を育むことだ。今は情報通信技術(ICT)の活用で一人ひとりの学習成果を捉え、それに基づくオーダーメード型の支援が可能になってきた。それぞれの得意・不得意を把握することで、どうすれば社会で活躍できるか早く気づかせたい」

―16学部86学科という規模感のマイナス面にどう対応しますか。
「大規模大学で分散型キャンパスになるが、オンライン講義をはじめとする教育DXで克服できる。例えば初年次科目の『自主創造の基礎』は1万5000人超の学生が受講している。本学のアイデンティティー構築により一体感を生み出せる。あらゆる分野がそろっていることで総合知の創出や、複数の学位を得るダブルディグリーなどでプラスだと考えている」

【記者の目/教育のバランス感覚不可欠】 新型コロナウイルス感染症で進んだDXは、大学教育のエポックだ。オンラインなら優れた授業を全学生が受講可能だ。一方で学長は専門の獣医学を通じて「個人の技量や性格をみての教育が欠かせない」と強調する。このバランス感覚は日大再生の力の一つとなるだろう。(編集委員・山本佳世子)

【略歴】さかい・たけお 66年(昭41)日大農獣医学部卒。東大医科学研究所、厚生省(現厚生労働省)などを経て81年日大農獣医学部専任講師。93年教授。05年学部長、理事。08―11年総長。山梨県出身、79歳。

出典:日刊工業新聞2022年9月20日

「ICTで支援」

「大規模大学は小回りが利かず、学生の対応が手薄になるといわれる。しかし時代により教育の手法が変わってきている」というのは、日本大学学長の酒井健夫さん。

オンライン講義で注目が高まった学習管理システム(LMS)など、「情報通信技術(ICT)によって、個々の学生の学習成果が可視化できる」とみる。

同大はマンモス大学といわれるが、「数百人の学生は数百人の個の集まり」との思いが強い。「ICTによってオーダーメード型の支援を進めたい」と考えている。

日刊工業新聞2022年10月7日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
約10年ぶりにトップ(前回は総長)として日大に復帰した酒井学長。当初は、「不祥事からの大学再生が主テーマ」との認識で取材に出むいたが、個性的で、関心する発言が複数、あった。一つは、日本最大級の規模の大学でありながら、個を大切にするという意識の強さだ。もう一つは、79歳という年齢ながら、ICTによる学習支援手法などの導入に前向きだったことだ。どちらも「中小規模大学なら、わかる」「50代なら当然、そう考える」というものだが、そうでないところにひかれた。専門は獣医学、前回の日大トップを終えた後は同分野の団体幹部で常勤職をしていた、というあたりも、優れたバランス感覚につながっているのではないかと想像している。

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