トヨタとスズキ「気心の知れた仲」 文化・思想近く

提携交渉を開始を発表

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豊田章男社長(左)と鈴木修会長
 トヨタ自動車とスズキとの提携は、一見するとスズキが得られるものが大きい。世界の自動車メーカーにとって環境・安全技術の高度化、多様化への対応は待ったなし。トヨタはいずれの分野でもトップランナーだが、独フォルクスワーゲン(VW)との提携を解消したスズキは新たな強力なパートナーが不可欠だ。互いによく知る国内メーカー同士でもあり、スズキにとってトヨタはもっとも望んでいた相手だろう。

 ただトヨタにとっても得るものはありそうだ。スズキの最大の魅力はインド。トヨタにとっては長年攻めあぐむ“鬼門”とも言われる市場だが、スズキはシェア50%に迫り「インドのトヨタ」と呼ばれる強さを誇る。VWがスズキに接近したのもインドでの協業が最大の狙いだった。

 ところが、鈴木修会長は提携直後に「一升枡(ます)には一升しか入らない。販売提携は自殺行為」と販売協力を否定し、関係に亀裂が入った。トヨタにとってインドでのシェア拡大の近道はマルチ・スズキの販売網の活用だが、スズキがどこまで譲歩するかが見物だ。

 一方、スズキはインド・グジャラート州に全額出資の生産子会社を設立し、工場は17年に稼働予定。合弁会社のマルチ・スズキの工場と比べ、活用の自由度は高く車両のOEM(相手先ブランド)供給ならトヨタとスズキ双方にメリットがある。

 また15年5月に提携拡大を発表したマツダのように、小回りのきく組織運営や働き方などを学び、人材育成につなげる考えもありそうだ。

「さすが鈴木修さんは用意周到だな」


 「さすが鈴木修さん(スズキ会長)は用意周到だな」。関係者によると、15年3月にスズキからトヨタに資本提携の打診があったという。当時、スズキはVWと提携解消を巡る仲裁裁判のまっただ中。裁判に勝った場合、負けた場合、あらゆる結果を想定し、水面下で提携交渉を始めていた。

 トヨタとスズキが提携する場合は、トヨタグループも巻き込んだ資本提携となる可能性が高い。スズキはVWから買い戻した発行済み株式の20%弱、約1億株が金庫株となっている。

 鈴木俊宏スズキ社長は保有する自己株の処理について「年度末(3月)までに方向性を決める」としていた。また1月21日の会見では「環境技術や安全技術がますます重要になる中、単独でやっていけるかは疑問。他社との提携はあり得る」と提携に前向きな姿勢を示していた。スズキはトヨタとの提携により、強力な後ろ盾が得られるだけでなく、ハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)などトヨタの先進技術に期待する。

 15年6月に鈴木修会長から鈴木俊宏社長にバトンが渡された。20年に創立100周年を迎えるスズキが、その先をどう生きるか。米ゼネラル・モーターズ(GM)、VWと世界の大手と提携を渡り歩いたスズキがいきつく先は、トヨタを中心とする“大日本連合”となる可能性が高い。

今も恩を忘れず


 「スズキはグローバル企業でありながら日本を大事にしている会社。長期目線で物事を考えてもいる」。トヨタ自動車首脳はスズキに対してこう評し、以前から“シンパシー”を感じていた。

 これによく似た表現は、15年5月のマツダとの提携発表会見でも聞かれた。豊田章男トヨタ社長はマツダについて「互いに大事にしている“ふるさと”を原点に持っている会社。同じ志を持った会社だと思ったことが、今回(提携関係を)一歩踏み入れたきっかけ」と強調していた。

 スズキは独VWとの提携関係が決裂してしまった最大の理由を「文化の違い」(鈴木修スズキ会長)とした。今回のトヨタとスズキとの提携検討はそうした思想、文化の共通性が両社を近づける引力の一つとなっているとみられる。


 もともとトヨタとスズキは気心の知れた仲。豊田家も鈴木家も現在の静岡県湖西市がルーツ。かつてスズキが排ガス規制に対応できず、トヨタが救済した恩を鈴木会長は今も忘れていない。まじめで実直な企業風土も似ており共通のサプライヤーも多い。

 業績好調な今こそ中長期目線で持続的成長が可能な体制づくりを進めたいトヨタ。VWとの提携解消によって強固な後ろ盾を得たいスズキ。近づくべくして近づいた両社と言える。

日刊工業新聞2016年1月28日「深層断面」より抜粋

COMMENT

明豊
執行役員デジタルメディア局長 DX担当

今年1月に掲載された記事。いよいよ具体化に向け動き出す。会見でトヨタの豊田章男社長とスズキの鈴木修会長は何を話すか。このツーショットも歴史的といえる。そして「実」があってこそ心情的な関係も深くなっていく。詳細は明日の日刊工業新聞で。

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