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AI診断支援広がる、医療機器メーカーが製品開発に注力する二つの背景

医療機器への人工知能(AI)実装が進む。従来の医用画像の高品質化を目的としたAI活用に加え、最近は診断支援にも領域が広がる。診断・診療支援AIシステムの国内市場は現在の約40億円から2026年には約4倍の160億円規模にまで成長するとの試算もある。医療の高度化や人手不足対応のため今後もニーズは拡大していくとみられ、医療現場の効率化に向け、医療機器メーカーはハードだけでなくソフトウエアによる新たな価値提供が求められる。(安川結野)

富士フイルムはAIを活用した内視鏡診断支援システム「キャドアイ」を展開しており、9月に胃と食道領域では日本初となるAIを活用した内視鏡診断支援ソフトウエア「EW10―EG01」の医療機器製造販売承認を取得した。内視鏡専門医と同等の精度で、がんが疑われる部位をリアルタイムに検出できる。年内にも国内で発売する予定だ。

メディカルシステム事業部の佐伯達彦部長は「上部内視鏡検査は大病院から診療所まで幅広い医療機関で実施され、件数も多い」と開発の意義を説明する。厚生労働省の発表によると、20年9月の上部消化管の内視鏡検査実施数は約100万人で、大腸内視鏡検査の約36万人を大きく上回る。上部消化管領域は検査効率の向上やがん検出支援へのニーズも高く、EW10―EG01の貢献が期待される。

同社はキャドアイシリーズとして、20年に大腸ポリープの検出と鑑別をするソフトウエア「EW10―EC02」を発売しており、今後も商品ラインアップを拡充していく方針だ。

他にも、オリンパスが日本初となる大腸内視鏡診断支援ソフトウエア「エンドブレイン」を19年に発売。さらに医療ベンチャーのAIメディカルサービス(東京都豊島区)は、胃がん鑑別AIの承認申請を21年に提出し、実用化を目指している。

各社が製品開発に力を入れる背景には、医療の効率化に対するニーズが高いことに加え、承認制度の整備が進んだことがある。14年にソフトウエアを使って治療や診断などを行うものとしてプログラム医療機器が医薬品医療機器等法(薬機法)に示され、さらに20年には厚生労働省が「DASH for SaMD」(プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略)を策定するなど、AIを活用した医療機器の評価や規制の体制を整備した。

矢野経済研究所は26年の国内の診断・診療支援AIシステム市場は現状比4倍と見込む。大手医療機器メーカーからベンチャーまでプレーヤーの裾野が広がっており、AIによる診断支援システムの開発と実用化がさらに活発になりそうだ。

日刊工業新聞2022年10月6日

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