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投資にブレーキの造船、競争激化による船価下落で損益悪化の可能性も

投資にブレーキの造船、競争激化による船価下落で損益悪化の可能性も

資機材価格高騰が続く中で造船業は受注を伸ばせるか(イメージ)

造船受注が踊り場を迎えそうだ。コロナ禍以降の物流ひっ迫で船舶の需給が引き締まり、船価は上昇したものの、海運大手の間で新造船の発注を「慎重に見極める」(日本郵船の長沢仁志社長)と投資にブレーキをかける動きが出始めた。造船業界は2年以上の手持ち工事を抱え、円安も追い風に、当面は様子見の構え。ただ資機材価格の高騰が続く中で再び買い手有利に流れが向くと、競争激化による船価下落で損益悪化を招く可能性がある。(編集委員・小川淳、鈴木真央)

日本の造船所の手持ち工事量は4月に2000万総トンを上回り、約2年半ぶりに2年程度の水準に戻した。2020年秋に1年程度と過去最低レベルに落ち込んだが、急回復した格好だ。欧州の夏季休暇で新造船の商談が停滞しがちな7月でも受注量は前年同月比14・6%増と伸び、平年を上回る水準を記録。為替の円安が追い風となり、ドルベースの船価は上昇傾向が強まる。

こうした状況に、日本郵船の長沢社長は「(好業績で)財務内容がずいぶん改善したため(低環境負荷の)船舶の発注を一挙にやろうとしたが、船価の上がるテンポが我々の行動を上回った」と指摘し、鋼材価格の値上がりなどで船価がコロナ禍前より3割程度上昇したことなどを踏まえ「船価は厳しいレベル」との認識を示す。

日本郵船は50年の温室効果ガス(GHG)排出量実質ゼロ(ネットゼロ)の達成に向け、21年に液化天然ガス(LNG)を燃料とする自動車運搬船12隻を発注したほか、22年にもLNG燃料のケープサイズ(積載重量15万トン超)のバラ積み船4隻を発注した。LNG燃料船は重油を燃料とする船舶より1―2割高いとみられ、当面はこうした大規模発注を抑える見通し。

既存船のディーゼル機関について、小規模な改造だけで使用できる植物油などが原料のバイオディーゼル燃料を「積極的に活用していく」(長沢社長)考えだという。

日本船舶輸出組合(JSEA)がまとめた8月の輸出船契約実績によると、受注量を示す一般鋼船の契約は前年同月比59・1%減の49万6800総トンと落ち込んだ。季節要因もあるが、高騰する船価が重しとなって船主の発注意欲が後退し「踊り場を迎えた」(造船関係者)と見る向きはある。

目下、ライバルの韓国や中国の造船業も受注残を積み上げており、競争環境は落ち着いているが、手持ち工事をさらに増やそうとしても「先物ゆえに船主から資機材価格の高騰を反映した船価が取れないジレンマに陥っている」(今治造船)のが実情だ。人手不足の中で手持ち工事を契約納期通りに解消する一方、どこまで線表を伸ばしていけるか。造船、海運の駆け引きが続く。

日刊工業新聞2022年10月6日

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