ニュースイッチ

「西九州新幹線」開業に見る自治体の呼応と苦心の跡

「西九州新幹線」開業に見る自治体の呼応と苦心の跡

武雄温泉―長崎間を結ぶ西九州新幹線N700S「かもめ」(武雄温泉駅)

西九州新幹線が23日開業する。佐賀県武雄市と長崎市を結ぶ66キロメートルに5駅を擁する。武雄温泉、嬉野温泉と「温泉駅」が並ぶなど観光路線として魅力を打ち出すほか、地域では市や県をまたいだ通勤通学利用の潜在需要に期待する。佐賀・長崎の西九州エリアに新たな可能性をもたらすインフラとなる期待が高まる。(西部・三苫能徳、九州中央・片山亮輔)

「取り組みを続けながら中長期で開業効果を出す」。JR九州の古宮洋二社長は開業を前に力を込める。同社にとって新幹線の開業は、博多―鹿児島中央を結ぶ九州新幹線に続く2路線目。長崎―博多間の所要時間は最速で約1時間20分となる。九州新幹線の実績を生かし、30分ほどの所要時間の短縮を強みに、西九州でも人の流れを新たにつくりだす構えだ。

九州新幹線の開業時には、地形と時短効果を比較して“九州は南北に短くなった”と例えられた。この表現に従えば、西九州新幹線開業で西側が“短く”なることになる。

特に「通勤通学は観光と並ぶ柱」(古宮社長)で、最適化したダイヤで需要を創出する。定住・移住の促進を目的に自治体も呼応する。武雄温泉駅を擁する佐賀県武雄市、嬉野温泉駅が開業する同嬉野市は、新幹線で職場や学校に通う市民向けの補助を導入する。武雄市は県外通勤を対象に上限3万円、嬉野市では通勤先を問わず同2万円を補助する。

もう一つの柱である観光面で、JR九州は観光列車「ふたつ星4047」を23日から走らせて面的に盛り上げる。新幹線と同じ武雄温泉―長崎間を運行するが、最短23分の新幹線と異なり、海沿いの在来線2路線を片道約3時間かけてじっくりと楽しむ列車だ。

(右から)山口祥義佐賀県知事、古宮洋二JR九州社長、大石賢吾長崎県知事

バリアフリー観光など先進的な観光を取り入れてきた嬉野市では、テクノロジーによる地域課題の解決に向けても体制を築く。佐賀大学理工学部と連携協定を7日に締結。同学部の開発による自走式台車を用いた「荷物を持たない観光」の実践も視野に入れる。嬉野市の担当者は「新幹線開業は大きな転換。佐賀大の知見や発想力を生かした連携ができれば」と期待する。

他方で部分開業とされる今回の運行区間では、各駅停車の便でも新幹線の乗車時間は約30分。長崎駅の土産物店には「10分で食べられるおつまみ」との宣伝ポップも登場し、便利さと旅情の両立に苦心の跡がうかがわれる。

長崎駅周辺では新幹線開業を契機にした大規模な再開発が進む。同時に地元には、時短効果が限定的な部分開業に喜びきれない思いもある。当初計画された九州新幹線との直通運転の実現は、現時点で白紙状態だ。

西九州新幹線は鉄道誕生150年の節目に走り出す路線でもある。次の50年、100年も走り続ける交通機関となりうるかは、沿線が持続可能な地域であり続けられるかと同義だ。存続が議論される赤字ローカル線と同様に、完成したインフラをいかに生かすか、地域も巻き込んだ知恵と努力の発揮が求められる。

日刊工業新聞2022年9月22日

編集部のおすすめ