ノーベル賞受賞10年…「iPS細胞」実用化への今

  • 3
  • 10
線維芽細胞から樹立したヒトiPS細胞のコロニー(コロニーの横幅は実寸約0.5ミリメートル=京大山中教授提供)

京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞(人工多能性幹細胞)の製作に成功し、その功績で2012年にノーベル賞を受賞して今年で10年がたつ。これまでに世界中でiPS細胞の基礎・応用研究が進められ、論文数は1万報以上に上る。安全性・有効性に課題は残るが、この間、患者にiPS細胞で作った臓器などを適用する臨床試験も増えている。iPS細胞の実用化に向けた研究がさらに進展すれば、さまざまな疾患の治療法の確立につながる。(飯田真美子)

数多くの病気が存在する中で細胞や組織を使って機能を回復する「再生医療」が注目されている。特にさまざまな臓器に分化できるiPS細胞研究への期待は高い。理化学研究所の元プロジェクトリーダーでビジョンケア(神戸市中央区)の高橋政代社長が14年にiPS細胞を使って実施した、加齢で目が見えにくくなる病気「加齢黄斑変性」の治療が世界初の事例で、これ以降、臨床試験が増えている。

最近では、慶応義塾大学の岡野栄之教授らが、治療法が確立されていない脊髄損傷の患者にiPS細胞由来の神経前駆細胞を移植することに成功した。今後、術後の経過を1年間観察し、さらに3人の患者の手術を実施して安全性・有効性を確認する。

大阪大学の西田幸二教授らは、iPS細胞から角膜上皮を作製して4人の角膜疾患患者に移植し再生できた。術後1年間の経過観察から拒絶反応や腫瘍形成はなく、安全・有効であることを示した。西田教授は「23年にも次の治験を実施し、25年ごろをめどに実用化を目指す」と意気込みを見せる。

だが、iPS細胞を実際に使う上で課題はなお残る。さらなる基礎研究の強化が必要で、実用化にはまだ時間がかかりそうだ。

受賞の喜びを答える山中教授(12年10月)

さまざまな種類の細胞になり得る「幹細胞」の研究では遺伝子変異や機能などの研究が十分でなく、細胞が腫瘍化する可能性について未解明な点が多い。また、iPS細胞を使う時に残存する未分化細胞を除去する必要もあり、その手法の確立が求められている。このため、京大の山中教授は21年12月に行った、iPS細胞研究所の所長退任会見で「研究者として最後の期間は自身の研究に注力する。基礎研究を進めて、医学・生物学に貢献したい」としていた。

iPS細胞への期待は高いものの、研究にかかる資金や人材などの維持が難しいことも研究を進める上で足かせとなっている。京大の山中教授は今、チャリティーマラソンを通じて研究費の寄付を募っている。

文部科学省でもiPS細胞関連の研究を後押しするプログラムを進めてきたが、22年度で一度区切りを迎える。23年度からは再生・細胞医療だけでなく遺伝子治療にも研究領域を広げ、工学系や情報系といった異分野研究者や企業などとのチーム型で研究する新プログラムを始める。研究の中核拠点を作り、倫理や知的財産、事業化戦略を含めた伴走支援を充実化する。プログラム全体を通して若手研究者の人材育成にもつなげる。文科省の奥篤史課長は「遺伝子治療の研究や実用化に向けた支援を進めたい」と将来を見据える。

iPS細胞の研究は患者を対象とした臨床試験だけでなく、創薬開発に向けた基礎研究にも応用可能だ。生活習慣病に加え、希少・難病指定されている疾患に苦しむ患者は増えている。さまざまな病気に対処できる可能性が高いiPS細胞による治療法の確立が、再生医療の発展につながると期待される。

日刊工業新聞2022年9月20日

キーワード
iPS細胞 ノーベル賞

関連する記事はこちら

特集

このサイトでは、アクセス状況の把握や広告配信などのためにクッキー(Cookie)を使用しています。オプトアウトを含むクッキーの設定や使用の詳細についてはプライバシーポリシーページをご覧ください。

閉じる