海洋性光合成細菌でバイオ高分子生産、京大の挑戦

CO2の資源化期待 

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シンビオーブとスパイバーが開発したクモ糸シルクたんぱく質繊維「エアシルク」の試作品

京都大学の沼田圭司教授らは、二酸化炭素(CO2)と海洋性紅色光合成細菌によるバイオ高分子の生産に挑戦している。同細菌は近赤外光のもとでCO2を利用して、非酸素発生型の光合成を行う性質を持つ。開発した技術を応用し、2022年に相次ぎ試作品などの開発に成功した。沼田教授は、「CO2と窒素を固定化するほか、高分子を作製することで空気の資源化につながる」と研究の意義を話す。(大阪・石宮由紀子)

沼田教授らは16年、海洋性紅色光合成細菌が高分子量のポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を生産することを発見した。PHAは微生物が体内に生産するバイオマスプラスチックの一種。研究チームの16年の発表以前に、窒素成分を欠乏させた「窒素欠乏培地」における培養でPHAが生産されるのが分かっていた。このため細胞培養に必要な炭素源として、酢酸もしくは炭酸水素ナトリウムを窒素欠乏培地や人工海水に添加するなどした。両化合物は、水とCO2に分解できる特徴がある。

研究の結果、酢酸を人工海水に添加した場合にPHAを生産することが分かった。また一部の海洋性紅色光合成細菌からPHAを抽出・精製したところ、一般的な微生物が生産するPHAの数平均分子量の2―3倍の数平均分子量を示していたことを明らかにした。プラスチックの引っ張り強度や再延伸性の向上を考えた際に、高い分子量は有用になる。この研究により、培養の最適な条件や必要な化合物なども絞られてきた。

酸素を発生する光合成を行う生物と言えば、地球上の大気層に酸素を供給したとされる原核生物のシアノバクテリア(藍藻)が挙げられる。ただ沼田教授は、「シアノバクテリアは体重を100としたうち、PHAを10%作れればいいほうではないか。海洋性紅色光合成細菌であれば60%作れる」とし、海洋性紅色光合成細菌の優位性を示す。

海洋性紅色光合成細菌を培養する京大桂キャンパス内のデモプラント

この研究は、3月に新たなフェーズに移った。島津製作所や京大発ベンチャーのシンビオーブ(京都市西京区)、三井住友建設、京都府、京都府舞鶴市と共同で京都大学桂キャンパス内(同)に海洋性紅色光合成細菌を培養するデモプラントを稼働。総量4000リットルの大規模な培養が可能となる。

デモプラントで使用する海洋性紅色光合成細菌は1マイクロ―2マイクロメートル(マイクロは100万分の1)ほどの大きさで、「どの海にでもいるような細菌だ」(沼田教授)という。このため京大から陸路で輸送できる距離の舞鶴湾(京都府舞鶴市)で天然海水を採取し、デモプラントに運ぶ。酢酸を生成する手順と同様に、細かく気泡状にしたCO2を海水中に均一にしながら溶かして槽内を循環させることで培養する。

研究の結果得られたPHAにより、具体的な製品化へと進める取り組みも始まった。シンビオーブと水産養殖用飼料や窒素肥料を作出したほか、シンビオーブとスパイバー(山形県鶴岡市)とでクモ糸シルクたんぱく質繊維の試作品を完成するなどした。沼田教授は、「高分子を作れるのが我々の強み」と期待をかける。

日刊工業新聞2022年8月22日

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