新型「iPhone」国内2割値上げ…消費者は「高いスマホ」をどこまで受け入れるのか
スマートフォンの高価格化が進んでいる。米アップルが8日に発表した「iPhone(アイフォーン)」の新モデル「14」シリーズは米販売価格は据え置いたが、廉価版を廃止し最新機種シリーズの最低価格は上がった。背景にはスマホの高機能化のほか、半導体や電子部品の価格上昇がある。また円安を受け、アイフォーン14の日本価格は11万9800円(消費税込み)からと現行「13」の発売時と比べて2割程度上げた。消費者は「高いスマホ」をどこまで受け入れるのか。(張谷京子、編集委員・錦織承平、山田邦和、阿部未沙子)
【部品高騰・円安が影響】廉価版廃止
アイフォーン14シリーズの4機種は16日以降順次発売となる。そのうちの「14」はカメラレンズは、背面に二つと前面に一つ配置。動画撮影時の手ぶれを抑える機能を追加したほか、暗い場所でもより鮮明に撮影できるようにした。バッテリー持続時間も伸びた。
安全機能も向上。緊急時に衛星通信接続ができるようにしたほか、衝突事故検知機能を搭載。交通事故に遭ってアイフォーンが手の届かない場所にある時にも、自動的に緊急通報サービスに発信できるようにした。
米カリフォルニア州の本社でオンライン発表会を開いたアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は「ユーザーを有意義な方法で助ける素晴らしい新機能の数々がある」と新モデルをアピールした。
アイフォーンの新モデルをめぐっては、米国が数十年ぶりのインフレにある中で、その機能に加え、価格展開が注目されていた。結果的には「14」「14Pro」「14ProMax」ともに13シリーズから据え置き。ただ小型の「mini」は14シリーズでは廃止され、最新シリーズのラインアップにおける最低価格は699ドルから799ドルに上がった。
またアップルは「14」の日本での販売価格(消費税込み)を大幅に引き上げた。128ギガバイト(ギガは10億)の場合、現行モデル「13」発売時と比べて2万1000円増。「14」シリーズ発表前の「13」と比べて2000円増。
従来同社は、日本でのアイフォーンの販売価格を安めに設定していた。MM総研(東京都港区)が6月に発表した調査によると、日本のアイフォーン販売価格は世界34の国・地域の中で最安だった。アップルは国内スマホ市場でシェア5割弱を占める。日本でのシェア率の高さを重要視していた可能性はある。
ただ、円安・ドル高が進む中、こうした価格設定はアップルの業績にとってマイナスに働く。同社の22年4―6月期の売上高は前年同期比1・9%増の829億5900万ドル(約11兆9300億円)で、4―6月期として過去最高を更新。地域別では米国や欧州での売り上げが伸びた一方で、日本市場は同15・7%減の54億4600万ドルだった。
そこでアップルが踏み切ったのが日本でのアイフォーンの値上げだった。7月、同社は「13」の128ギガバイトの場合、2万円近く引き上げた。一方、「14」の発表と同時に「13」の価格は1万円値下げした。高価格に設定した最新モデル「14」でどこまで消費者の需要を喚起できるのか、注目が集まりそうだ。
今後気になるのは、消費者の動向。アイフォーンの高価格化は消費者の購買欲低下を招く可能性があるからだ。MMDLabo(東京都港区)が運営する調査機関MMD研究所はスマホ市場の動向について「近年アップル以外の各メーカーも端末価格が高騰している。消費者のスマホを買い替えるまでの期間が長くなっている」と分析する。
スマホの買い替え時期の長期化に加え、安価なスマホへの人気が高まっているという傾向もある。MM総研が発売時の販売価格(消費税込み)を採用して価格帯別の出荷台数構成比を分析したところ、4Gと5Gともに20年と21年の価格帯別構成比は低価格帯の比率が上昇。5Gでは「9万円以上」の出荷構成比が、21年に前年比18・5ポイント減の62・4%に減少。20年では実績ゼロだった「3万円未満」が21年は8・8%となった。
スマホの高価格化を消費者はどこまで許容するのか。日本で価格が上がったアイフォーンの新モデルの売れ行きが、それを測る一つの物差しになる。
【半導体価格2年で2―3割上昇】5G化などで部品点数増
スマホが高価格になる要因の一つは、半導体価格の高騰だ。アップルなどにプロセッサーを供給する半導体受託製造大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、21年に続いて22年も半導体価格を引き上げた。シリコンウエハーや回路形成用ガスなどの部材メーカーでは、エネルギーや物流コストの上昇分、半導体不足解消に向けた投資負担を販売価格に転嫁する動きが相次ぐ。英調査会社オムディアの南川明シニアコンサルティングディレクターは「スマホ向け半導体価格はこの2年で大まかに2―3割上がった」とする。
一方、米ガートナーは7月末、エネルギーコストの上昇などが消費者のスマホやパソコンへの支出に影響を与えているとし、世界の半導体売上高の成長率を前回発表の13・6%から7・4%に引き下げた。オムディアの南川氏はスマホ向け半導体の直近の需給について「22年4―6月から急変し調整局面に入った。中国・上海のロックダウン(都市封鎖)や欧州のエネルギー価格高騰などが生産と需要の両方を下押しし、最終ユーザーの消費動向が悪化している」と指摘する。メモリー価格の下落は足元でも続く。
今後、アイフォーンの新モデルの売れ行きも、半導体の需給と価格動向を左右する要因の一つとなる。