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“逆オイルショック”は人民元の国際化を試す

文=大井幸子(国際金融アナリスト兼SAIL社長)
 年明けから世界の株式相場が下げ続けるなか、今週、台湾とイランで大きな動きがあった。16日の台湾総選で野党・民進党の蔡英文氏が圧勝し、初めての女性総統に当選した。この政権交代で中台関係は見直されるだろう。また、17日にオバマ大統領はイラン制裁の一部を解除し、イランの海外資産約1000億ドル(約12兆円)を凍結解除すると演説した。

 この二つの出来事には、アジアと中東地域における米国の「オフショア・バランシング」という戦略が見て取れる。要するに、米国は海外で直接的に軍事力を行使するのではなく、敵対する国同士を相互に牽制させることで、低コストで効率的に世界をコントロールする。

 この戦略のおかげで、これまでの国際的な勢力が細かく分断されながらも相互に抑止し合う事態が多発し、地域紛争や突発的なテロなど地政学上のリスクが複雑に拡散されることになる。

 例えば中東地域では、イランとサウジアラビアが国交断絶するなど、新たな宗派、民族の対立が先鋭化している。米国は既に世界最大の原油輸出国であり、原油価格下落が続けば、原油を一次産品として輸出するロシアやサウジの資金源を抑止できる立場に立っている。テロ国家への支援資金の流れをコントロールすることも米国の狙いである。

元安を見込んでますます資本流出


 また、アジア地域では、通貨をめぐる勢力均衡が進行中である。香港と台湾、シンガポールの通貨はドルに連動している。中国では国外への資本流出を止めて、輸出主導型製造業中心の経済から内需型消費社会にシフトするためには、人民元高に誘導する必要がある。

 しかし、目の前の景気減速に対応するために元を切り下げるので、元安を見込んでますます資本流出が起こるという悪循環となっている。

 これまで香港からの投資は、香港ドルから人民元に変えて中国の株式や不動産に投資してされてきた。ところが、株式・不動産バブルが破たんし、さらに人民元安の圧力で人民元建てローン金利が上昇し、香港ドルも香港株式も下げている。中国当局は元安を食い止めるためにオフショアで元買いの介入を実施した。

 しかし、オンショアとオフショアで人民元のレートに格差が出るなど、人民元の国際化には課題が山積している。

 かつて1970年代に中東戦争で原油供給がストップし、原油高が世界をインフレ不況と失業に陥れた。この「オイルショック」を機に、米国は世界の金融市場を変動相場制へと導いた。今回の原油安は「逆オイルショック」として、人民元の国際化を試す展開となるだろう。

※日刊工業新聞では毎週金曜日に「国際金融市場を読む」を連載中
日刊工業新聞2016年1月22日金融面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
では日本経済はどうか。原油安はガソリン価格の低下などにつながり、個人消費といった内需にはプラスに作用する。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「16年は15年比で、ガソリンだけで約1兆円の費用削減効果があった。原油安は可処分所得の上昇につながり、家計の購買力もジワジワと高まる」とし、16年度は外需の停滞を補うと予測する。ただ「(為替や株など)マーケットの混乱が長引かない」ことが前提だ。ニッセイ基礎研の矢嶋康次チーフエコノミストは「日本企業の想定レートである1ドル=118円を超えた円高方向に動いている。今春闘も賃上げの動きは広がるが、金額は前回春闘を下回るのは既定路線」と指摘し、日銀の対応に注目にする。

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