足りぬAI・データ人材、企業が知っておくべき“もう一つ”の採用方法

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写真はイメージ

企業活動の生産性を高める上で人工知能(AI)やデータの活用は不可欠になりつつある。しかし、AI構築やデータ解析などの「先端IT領域」と呼ばれる業務を担える人材は枯渇している。企業が求人メディアや人材エージェントを複数利用したり、直接オファーしたりしてもなかなか採用できないのが現状だ。こうした中で、パーソルチャレンジ(東京都港区)は先端IT人材を採用する“もう一つ”の方法を提案している。

先端ITに特化した就労支援

「画像認識技術を用いて画像内に埋め込まれたテキストを翻訳するシステムを作りました。企業が海外版のホームページを作る際の活用などが期待できます」-。20代の男性が約2カ月をかけて構築したAIシステムの仕組みを説明する。その発表に企業の人事担当者らが熱心に耳を傾けていた。

テキストを翻訳するAIシステムを構築した20代男性のプレゼン資料

8月のある日、パーソルチャレンジが運営する先端IT特化型就労支援事業所「Neuro Dive(ニューロダイブ)」の成果発表会がオンラインで開かれていた。ニューロダイブでは自閉症スペクトラムや注意欠如・多動症(ADHD)といった発達障害のある人などが最長2年間、機械学習やデータ解析などを学べる。成果発表会はそこで培ったスキルで構築した機械学習モデルなどを披露する場だ。ニューロダイブで学んだ人材と、先端IT人材の不足などに悩む企業の最初の接点になる。企業は関心を持った発表者に就業体験(インターンシップ)の機会などを提供し、採用を検討する。

ニューロダイブは19年11月に開所した。現在は秋葉原と横浜、福岡の3カ所に構える。事業所ではそれぞれ20人程度がeラーニングなどで学ぶ。具体的には、まず入所後1-2カ月でプログラミングなどの基礎スキルを身につける。その上で、機械学習やRPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)、デジタルマーケティングなどの中で学ぶ専門領域について、ニューロダイブに従事するITアドバイザーと相談しながら決める。

19年11月に開所した「Neuro Dive秋葉原」

専門領域は大きく3段階で学習する。「講座を視聴する」「講座の指示通りに成果物を作る」「通所者の決めたテーマで成果物を作る」だ。こうして作成した成果物はITアドバイザーの評価を受けるほか、前出の成果発表会で披露する。この作業を繰り返してスキルを高めていく。合わせてビジネスマナーや対話スキルなども学ぶ。

ニューロダイブを通してこれまでに約30人が就職し、活躍している。例えば、日揮グループの特例子会社でグループ会社のIT業務を請け負う日揮パラレルテクノロジーに勤める20代の男性は陸上養殖事業の生産性を高める画像認識AIの構築を担っている。

発達障害の特性を生かせる舞台を探した

事業立ち上げ道のりは16年ころに遡る。パーソルチャレンジコーポレート本部事業開発部の大濱徹ゼネラルマネジャーが当時を振り返る。

「パーソルチャレンジでは障害者専門の就職・転職支援サービス『dodaチャレンジ』を通じて精神障害のある人を支援していましたが、当時は多くの企業で精神障害への理解が進んでいないこともあって採用を敬遠する企業が多く、なかなか役に立てずに歯がゆい思いをしていました。一方、そうした求職者と対話する中で、発達障害の特性を持つ方が多いことに気付きました。その特性によって職場で不適応を起こし、二次障害としてうつ病などの精神障害を抱えてしまうという構造です。もし発達障害の特性を個人も企業も理解していれば、うつ病などに罹らなかったのではと考えました」

発達障害を持つ人はコミュニケーションが苦手な一方、特定の領域に関心を持ち、強くこだわる特性があるとされる。この特性が生かせる舞台はどこか。たどり着いた領域が、今後の人材不足の拡大が見込まれる先端IT分野だった。

先端IT市場規模の変化(経済産業省「IT人材需給に関する調査」を基に作成)

「先端ITは常に新しい知識の習得が求められます。それに根気強いデータ検証などが必要な領域です。発達障害があり、知的水準が高い人材が活躍できる舞台だと感じました」

実は、発達障害の特性と先端IT領域の業務との親和性は欧米で注目されている。脳や神経に由来する個人の特性の違いを多様性と捉え、社会の中で生かす「ニューロダイバーシティ」という考え方の下、米SAPは11年から、米マイクロソフトは15年から関連の雇用プログラムを持つ。大濱ゼネラルマネジャーはこうした動きを後から知ったという。

強い手応えはまだ得ていない

事業開始から2年半。ニューロダイブを通した就職者数は着実に積み上がり、ことし7月には人や組織の領域で企業や個人の成長につながる優れた取り組みを表彰する「HRアワード」(日本の人事部主催)に入賞した。しかし、まだ強い手応えは得ていない。背景には、ニューロダイブはあくまで「障害者雇用を促進する仕組み」と多くの企業に認識されてしまう現状がある。

「『ニューロダイバーシティ』という言葉の認知度も低く、企業の人事担当者には発達障害のある人の特性を生かすという発想をなかなか持ってもらえません」

そうした課題の解決に向けて、ニューロダイブは今後、拠点数を全国に増やすほか、企業への認知普及活動を行っていく。企業に対しては、すでにニューロダイバースな人材に関心があり、活躍を促す意向を持つ複数の企業と連帯して情報発信することで、ニューロダイバーシティの浸透を加速させたい考えだ。そして、ニューロダイブで学んだ先端IT人材の活躍の場の拡大につなげる。

「ニューロダイブとしては毎年150人くらいが就職し、企業で戦力になることが一つの到達点」

一方、それは通過点に過ぎないという。その先の目標として企業組織の変革を見据える。大濱ゼネラルマネジャーが続ける。

「障害に限らず、多様な属性や能力を持った人材を多様な場所や働き方で雇用し、幅や奥行きのある人事制度でそれぞれの活躍を促す。企業全体がそうした組織に変わらなければ成長できない時代になったと考えています。我々はそのように組織のあり方を変革したい。企業はまず法律(※1)で雇用が義務化されている障害者雇用領域で企業の競争力に直結する人材活用実績が作れれば、その突破口になると思っています」

※1障害者雇用促進法:従業員が一定数以上の規模の事業主に対し、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務を規定した法律。現行の民間企業の雇用率は2.3%。

先端IT特化型就労移行支援事業所「Neuro Dive」の詳細はこちら

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