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【218社研究開発アンケート】高い投資意欲の中、経済安全保障や女性活躍は?

日刊工業新聞社が実施した研究開発(R&D)アンケート(有効回答218社)によると、2022年度の研究開発費計画額を回答した152社の合計は21年度実績比7・9%増となり、13年連続の増加だった。新型コロナウイルス感染症の収束を見据え、企業は高い投資意欲を示した。研究開発の経済安全保障の管理体制は、101社が「整備・強化が必要」、約2割にあたる43社が「管理体制なし」と回答した。

研究開発費の企業別順位では、トヨタ自動車が1兆1300億円と21年連続で首位。ホンダが2位、デンソーが4位、日産自動車が5位と自動車関連企業が上位を占めた。日産は「将来の成長のために、今後も継続して新車開発や電動化およびCASE対応等の投資をしっかりと行っていくため」とコメント。

武田薬品工業が前年度の5位から3位に順位を上げた。7位は日立製作所。武田薬品は「複数の開発品目の進捗(しんちょく)に伴い増加を見込む。研究開発費の大部分は米ドル建てのため、為替が円安となっている点も増加要因」と回答している。

研究開発で力を入れている具体的な分野(複数回答)では、世界的なカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の流れを受けて、「環境・エネルギー」が76・7%で最も多かった。これに56・7%の「ロボット・人工知能(AI)」、55・3%の「ビッグデータ(大量データ)・IoT(モノのインターネット)」、54・9%の「情報通信技術(ICT)・エレクトロニクス」が続いた。

研究開発を支える人材に関して56・9%の企業が「採用が難しくなっている」と回答。一方で、向こう数年を見通した研究開発人員を「増やす」と回答した企業は41・8%と企業の採用意欲は高い。こうした人材の確保(複数回答可)について「中途採用の拡大」と回答した企業が79・8%と「新規採用の拡大」を16・8ポイント上回った。ほかにも働きやすさの向上や外国人人材の活用なども進み、人材確保に向けた企業の努力がうかがえる。

今回、研究開発の経済安保と産学連携の項目をアンケートに追加。研究開発の経済安保の管理体制について「あるが強化は必要」「なし」と回答した企業が75%を占め、経済安保への取り組みが今後の課題になるとみられる。どの程度の情報管理を求めるかについて、産学連携で社内の実施者だけが知る「極秘」プロジェクトの管理を求める企業が実用化開発では研究段階に比べ倍増となる21・8%となることが分かった。

アンケートは1988年度から実施し、今年度は35回目。6月中旬から7月上旬にかけて調査した。

女性研究者/上級職登用 活躍の場広がる

研究職における女性の活躍を今回、2年前の2020年調査と同じ質問項目で尋ねて変化を調べた。「研究職の女性比率」がおよそどの程度か聞き、205社の有効回答を得た。「1割以下」を選んだのが55・1%で、2年前と比べて2・6ポイントの減。「約3割」が42%で4ポイント増、「約5割」が2・9%で1・4ポイント減。「6割以上」が前回と同様、みられなかった他、変化はいずれもわずかだった。

次に「研究職の女性採用増を意識しているか」を聞いたところ、有効回答206社のうち「意識している」が68・4%で、2年前と比べて4・5ポイント増。「意識していない」は18%で、8・9ポイント減と変化がみられた。「その他」は13・6%で4・3ポイント増だった。

女性活躍推進の実績で目を引くのは、「研究職または技術職から実現した最も高い女性の上級職のクラスは何か」の部分だ。有効回答は208社で、「役員クラス」が25・5%と、2年前と比べ7・1ポイント増。「部長級」が46・2%で0・6ポイント増。課長級は19・7%で6・1ポイント減、主任級は5・3%で0・7ポイント減、「上級職はいない」は3・4%で0・8ポイント減だった。

理系の女性役員比率が高いことは前回の調査でも注目されたが、さらに伸びて4分の1の社で存在する状況になった。5段階のうち上の2クラスがともに増え、下の3クラスがいずれも減ったことも目を引く。

研究職全体は総数が多く女性は少数派だ。女性の比率は動きにくいが登用は目に付く。わずか2年で上級職としての活躍の場が拡大したことがわかった。

自由筆記ではこの1―2年での変化を尋ねた。堀場製作所が挙げるように、「新登用の管理職、研究開発配属の新規採用者の双方で女性が目立ってきた」のが全体的な傾向だ。役員事例は「女性社外取締役(技術系)の就任」(トクヤマ)、「研究開発出身の女性役員が誕生」(協和キリン)など。「産官学連携の大型プロジェクトのリーダーに女性を任用」もあった。

数値での具体例は「毎年10人弱の理系女性を採用」(DMG森精機)、「21年度の女性研究職の採用比率は20・5%」(帝人)など。住友重機械工業は「女性は40―50代が7人に対して30代12人、20代10人と若手が多い」うえ、「女性のうち2割が外国籍社員」と、性別に国籍を重ねてダイバーシティーを意識する。

新型コロナによる働き方改革も後押しになった。NTNは「一部で認めていた在宅勤務制度を、21年4月より技術・研究部門の管理職や育児・介護従事者などを対象に。22年3月からは技術・研究部門の全従業員に適用拡大した」。移動せずにすむウェブ会議も心強い。NTTデータは「海外メンバーとの会話や英語での会議により、女性が海外コミュニケーションで活躍する機会が増えた」としている。

日韓工業新聞2022年8月17日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
日刊工業新聞社のR&Dアンケートは毎夏の定番、長年の実施だ。各企業の研究開発費の総額ランキングに加え、「売上高比率5%以上の企業ランキング」など、技術系の大学院生が就職を思案する時などに、他メディアにはない情報として参考になるだろう。定点観測はほかに「研究開発の重点分野」「研究者の採用計画」などがある。一方でその年の話題のテーマも取り上げており、今回は経済安全保障への対応がその一つだ。女性研究者については2年ぶりに同じ質問を投げかけた。その結果、「研究・技術職から実現した最も高い女性の上級職で、役員クラスがいる」と答えた企業は25・5%で、わずか2年で7・1ポイントもの増加だった。「研究開発型企業なら4分の1のところで理系女性役員が誕生している」ということは、文系を含む女性活躍全体を考える上で注目すべきことではないだろうか。

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