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量子コンピューターとスパコン「富岳」融合、文科省が世界に先駆ける

理研に基盤整備

文部科学省は世界に先駆けて「量子古典ハイブリッドコンピューティング(用語参照)」の基盤技術を開発する。量子コンピューターとスパコン「富岳」を組み合わせて計算可能領域を拡大する。並行して次世代シリコン半導体なども開発。経済安全保障の強化や地球規模の生態系予測など社会課題の解決につなげる。理化学研究所の新事業として2023年度の概算要求に盛り込む。

文科省は「量子古典ハイブリッドコンピューティング」と「未来の予測制御の科学」を掲げ、新事業を立ち上げる。量子コンピューターは22年度中に理研で国産初号機が開発される計画。これらを用いてハイブリッドコンピューティングの基盤や利用環境を整える。

同時に現行スパコンの高度化のために、次世代シリコン半導体や極端紫外線(EUV)リソグラフィー光源などの技術を開発する。こうした国家的、社会的に重要な先端技術を集中的に研究するため、理研の管理体制を強化する。

理研は数理科学系を中心にチームを立ち上げ、ハイブリッドコンピューターで実行するアルゴリズムを開発する。例えば物質の電子状態を予測し、制御することで新機能材料の開発につなげる。生態系の予測制御ではバイオマスの効率的な生産や二酸化炭素(CO2)排出量の収支予測につながる。

これを支えるため理研に数十人規模の研究DX(デジタル変革)の専門職を設ける。生物資源や量子機能物質などのデータを整えて蓄える。これを人工知能(AI)が学習して未来を予測する。計算機開発とアルゴリズム開発、データ整備の三つを有機的に連結させ、未来の予測制御の科学を開拓する。


【用語】量子古典ハイブリッドコンピューティング=スパコンなどの現行の古典コンピューターと量子コンピューターを組み合わせて高度な計算を実行する技術。量子コンピューターを単独で運用することは難しく、現行の計算機がサポートする。量子と現行機で得意な計算を分担し、全体として計算能力を高める。計算機のアーキテクチャー(設計概念)や量子誤り訂正機能などを統合してシステムを構築する。
日韓工業新聞2022年8月19日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
量子古典ハイブリッドコンピューティングで未来を予測し制御する科学を開拓し、社会変革のエンジンとする。字面を追うとSFみたいなプロジェクトが立ち上がります。理研の運営費交付金の新規分で70億強を措置するそうです。当面、量子計算機は単独では成立せず、普通の古典計算機から動かします。ハイブリッドは当たり前と言えば当たり前です。ただ、この融合部分は計算機全体の性能を左右し、既存のコンピューター産業にとっては主戦場になるかもしれません。方式は超伝導が先行していますが、シリコンや中性原子など、複数の方式を組み合わせたヘテロな量子計算機になるとも言われています。量子の中でヘテロ、古典と組み合わせてハイブリッド。複雑なハードウエアになりそうです。ソフトウエアの側からもハードの複雑さを吸収する技術が求められています。SFではなくSienceのFrontierである。たぶんこんな想定問答集があるんじゃないかと勘ぐってしまいます。

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