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「インクジェットプリンター、先行している自負ある」(エプソン社長)

碓井稔社長インタビュー。次はクラウド、AI分野で連携進める
「インクジェットプリンター、先行している自負ある」(エプソン社長)

セイコーエプソンの碓井社長

 ―2016年3月期を最終とする中期経営計画の進展は。
 「(プリンターのインク販売で利益を得る)ビジネスモデルの転換や、ウエアラブルなどの新規事業の展開など、方向感は見せられた。売上高や営業利益の数値目標も達成できそうだが『力強い成長』にはもう一歩。16年度以降は数字の追求以上に、成長の足場をしっかり固めることに重点を置かなければいけないと考えている」

 ―成長のけん引役である新興国市場の経済低迷の影響は。
 「新興国向けの大容量インクタンクプリンターに、14年までの勢いがないのは確かだ。しかし15年度も、30%くらいは販売台数が成長する見込み。低コストで印刷したいというニーズは大きい」

 ―大容量モデルは他社の参入も増えています。
 「ビジネス向けのインクジェットプリンターも含め、今後は厳しい環境になるだろう。ある程度の競争は覚悟している。ただ我々が最初に始め、先行している自負がある。世の中を変えようとしているので、ビジネスモデルが変わるまでの一定のコンペティションは必要だと考えている」

 ―オフィス向けインクジェット複合機を始めとしたBツーB(企業間)領域の拡大と、事業多角化の進捗(しんちょく)を教えて下さい。
 「オフィス向けは16年以降、顧客に直接商品の提案をする組織を作り、営業力を強化する。エンドユーザーを開拓し、販売元である代理店につなげる。加えて『速く、安く、キレイに印刷する』という製品の基本性能をより高める。多角化戦略では、中長期的にウエアラブルとロボットの比率を高めたい。特にロボットは市場拡大が確実だ。力覚センサーのようなコア技術を軸に、まずは製造現場向け、将来的にはサービス分野にも広げたい」

 ―次期中計の方針は。
 「テーマは『新しい時代の創造』。我々のオリジナルの価値である省エネ・小型化・精密技術などを活用し、もっと力強く成長できる基盤を作る。クラウドや人工知能(AI)といった分野での連携も進める。全ての事業で営業利益率10%以上を出せるようにしたい」

【記者の目・次の一手、どう伸すかがカギ】
プリンター事業でのビジネスモデル変革と事業構造転換は、着実に進んだ。しかし今後、競争は激しくなる。先行者利益が出ている間に、オフィス向け事業を伸ばすことが不可欠だ。さらにロボット、ウエアラブルなどの次の一手をどこまで伸ばせるかが、成長のカギとなる。M&A(合併・買収)も必要になってくるだろう。
(聞き手=政年佐貴恵)

プリントヘッドの新工場に200億円投資


 セイコーエプソンは20日、インクジェットプリンターなどの研究開発・生産拠点である広丘事業所(長野県塩尻市)に約200億円を投じ、プリントヘッドの新工場を建設すると発表した。夏に着工し、2018年度上期の稼働開始を目指す。生産技術の向上などを進め、将来的にはプリントヘッド全体の生産能力を約3倍に引き上げる。

 新工場の延べ床面積は約4万9000平方メートルの予定で、高性能プリントヘッド「プレシジョンコア」を生産する。プリントヘッド製造の前工程となる、超微小電気機械システム(MEMS)製造技術による、プリントチップ製造を行う。新工場には生産機能に加え、プリントヘッドや生産技術などプリンター関連の研究開発機能も置く。

 プレシジョンコアは高精度、高密度にインクを吐出できる点が特徴。主に大容量インクタンク搭載プリンターや商業・産業向け印刷機に採用されており、プレシジョンコア搭載プリンターの製品数は今後も増える見通し。セイコーエプソンは現在、より高速・高画質性能が求められるBツーB(企業間)向けプリンター事業を強化している。
日刊工業新聞2016年1月20日/21日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
正直、碓井さんが社長になる時はここまで会社が良くなるとは思っていなかった。最近はインタビューでも饒舌である。既存事業の業績だけでなく、使用済み用紙を再生する製紙機「ペーパーラボ」の開発など新しい挑戦もしっかりやっている。

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