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再建策大詰め。シャープに強みは残っているのか

再建策大詰め。シャープに強みは残っているのか

シャープの高橋興三社長

 シャープの経営再建が、なかなか出口を見いだせない。政府系ファンドの産業革新機構による支援の検討の一方で、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業による買収提案も再び浮上した。経営危機の表面化から間もなく4年。いまだに再建に向けた大きな方向性が揺れ動いているのは、シャープ自身が自社の強みを忘れてしまっているからではないだろうか。

 独自デバイスを開発し、それを応用した革新的商品で需要を創造する。そこで得た知見で、次世代デバイスを開発するというスパイラル戦略。腰に手を当て拳を突き出し、鬨(とき)の声を上げるATOM(アタック・チーム・オブ・マーケット)隊。開発と営業におけるシャープの伝統だ。

 シャープの強みは本来、こうしたチーム力を活用した堅実経営にある。他の電機大手が家電事業の赤字に苦しむ中で着実に利益を確保し、“勝ち組”に名を連ねたこともあった。いたずらに規模を追わないという理念を忘れ、液晶事業の拡大を急ぎすぎたことでバランスを崩し、危機に陥った。

 2012年3月に発表した鴻海との資本・業務提携。受託生産世界大手の鴻海のコスト競争力とシャープの開発力を結合し、国境をまたいだ垂直統合で企業価値を高めようという戦略には、それなりの説得力があった。

 当時の資料には「創業以来の創意の遺伝子を呼び起こし、スパイラル戦略を活性化させ、世の中にないヒット商品を次々と生み出す企業風土を醸成する」とある。外資との提携を起爆剤に、病魔を克服したかったのだろう。残念ながら実現に至らず、今は有力事業の切り売りばかりが注目される展開になっている。

 シャープの強みは液晶だけではないはずだ。決してスマートとは言えない訪問販売の遺伝子もある。海外事業の開拓で育てた語学堪能な若手社員も少なくない。

 経営再建策がどう決着するかは定かではない。しかし、どんな形にしろシャープが息を吹き返すためには、自社の強みを核としたビジネスモデルの議論が抜け落ちてはいけない。

鴻海が再提案、革新機構は月末に機関決定へ。「Xデー」は?


 経営危機のシャープに対し、台湾・鴻海精密工業が買収再提案を行った。従来案5000億円を上回る7000億円規模の額を提示したもよう。一方、政府系ファンド産業革新機構も2000億円規模の出資など、シャープ支援に向け協議中で月末の会議での機関決定を目指す。両者案の金額差は明白だが、シャープと同社の主力取引銀行は「経済合理性を踏まえ判断する」(主力行幹部)という。

 EMS(電子機器製造受託サービス)最大手の鴻海は、買収や液晶事業への出資など複数案を提案中。鴻海は最大顧客である米アップルから中小型液晶を再受注し、部品製造から組み立て、供給までを一貫して担うのが目標で、シャープの液晶事業を高評価する。ただ、「日の丸連合」結成を御旗にする革新機構と比べて旗色が悪く、新提案で巻き返す。

 一方、革新機構は月末の会議でシャープ支援の契約を機関決定できるよう査定中。早急に支援内容を固めて提示し、月末の会議までにシャープと主力行から合意を得たい考え。ただ約7500億円の債務を抱える同社の査定は煩雑で芳しくない。革新機構は主力行のみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行に、債務を株式化する金融支援などを求めているが詳細な支援スキームはまだ固めきれていない。

 シャープは2016年3月期に見込んだ営業黒字予想が一転、液晶事業不振で営業赤字に陥るもようで、業績は悪化の一途。主力行主導の再建が頓挫し、最終判断を迫られる。
日刊工業新聞2016年1月18日面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
先日、シャープの50代の部長クラスの人と話した。辞めていく若手の部下を引き留める権利は自分にないと。「彼らは彼らの生活もあるから」と。逆に50代の部長は、自分がさっさと転職して辞めていくことは下に示しが付かない、とも言っていた。「はやく決着して若手が安定して働ける環境になって欲しい」というのが切実なる願いだ。強みは残った社員がまた築いていくしかない。

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