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非正規雇用者の底上げ目指す「ボトムアップ型春闘」始まる

中小企業の賃金格差を配慮。自動車総連、ベア3千円以上を正式決定
非正規雇用者の底上げ目指す「ボトムアップ型春闘」始まる

会見する自動車総連の相原会長(右)

 全日本自動車産業労働組合総連合会(自動車総連、相原康伸会長)は14日、2016年の春季労使交渉(春闘)で、ベースアップ(ベア)に相当する賃金改善分について、傘下の全単組が月3000円以上を要求する方針を正式決定した。直接雇用の非正規労働者についても、時給20円を目安に賃金改善分を要求する。一時金は年間5カ月分を基準とし、15年春闘で獲得した実績以上を目指して交渉に取り組む。

 同日、東京都内で開いた中央委員会で要求基準を決議した。すでにトヨタ自動車労働組合は月3000円の賃金改善分を要求する執行部案を固めている。他の完成車系単組も同様の水準になる見通しだ。

 月3000円以上の要求水準は、15年春闘で掲げた同6000円と比べて半分になる。国内外の経済情勢の不透明さや、物価上昇が小幅な点などを考慮。企業の規模や業種により賃金格差が拡大している状況も踏まえ、月3000円以上の要求水準を設定した。

 相原会長は会見で「16年の労働界全体のキーワードは底上げと格差是正」と強調。「デフレ脱却、経済好循環に向けた歯車を回すため、確実な賃金引き上げが重要になる。大企業のみならず中堅・中小、非正規労働者も含め、賃金引き上げの傘に多くの皆さんに入ってもらえるよう取り組む」と述べた。

 15年春闘では傘下の1113単組のうち804単組が賃金改善分を獲得し、平均額は1625円だった。業種別の平均額は完成車系の3000円に対し、車体・部品系は1435円、販売系は1668円と約半分にとどまった。規模別でも、組合員3000人以上の単組の平均額が2653円だったのに対し、300人未満の単組は1584円と約1000円の差があった。

日銀・黒田総裁も連合にエール


 2016年春闘が本番を迎える。政府は2020年までに国内総生産(GDP)を600兆円まで増やす目標を掲げている。毎年3%以上の成長と「経済の好循環」を実現させるにはGDPの6割を占める個人消費の底上げが必要となる。

 「賃金上昇は日本経済の成長に不可欠だ」。5日に開かれた連合の新年交歓会で日銀の黒田東彦総裁は、日銀が目標に掲げる2%の物価上昇を実現させるため「それに見合った賃金上昇がなければ持続可能ではない」とあいさつ。「必要ならばさらに思い切った判断をする」と異例とも言えるエールを送った。

 連合は昨年11月に「ベースアップ(ベア)2%程度」を基準とする2016年春闘基本方針を決定した。2%台の要求は15年春闘統一要求の「2%以上」に続き2年連続。ベアと定期昇給(賃金カーブ維持)相当分(2%程度)と合わせ、昨年要求と同水準の4%の賃上げとなるが、焦点は3%台を確保できるかだ。

 15年春闘で連合傘下労組は定昇とベアを合わせ、平均2・20%の賃上げを確保した。しかし、3%近く増えたのは自動車(2・90%増)と機械金属(2・95%増)だけにとどまった。

 安倍晋三首相は「アベノミクスで雇用が増えた」とするが、増加が目立つのは非正規労働者だ。中小・非正規労働者を多く抱えるUAゼンセン出身の逢見直人事務局長は「賃上げは十分ではない。中小、非正規には光が当たっていない」と話す。円安による大企業の利益が、雇用の7割を占める中小企業や地場産業には波及していないのが現実だ。

 厚生労働省の調査では、従業員30人未満の事業所の賃金上昇率は平均0・9%と前年を0・2ポイント下回った。中小・地場、非正規の底上げができるかが、経済の好循環の成否を握っている。
日刊工業新聞2016年1月15日付3面
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
春闘の相場形成に強い影響力を持つ自動車総連-。ベア要求は3年連続の一方で、要求額は15年の半額にとどめているのは、大企業と中小企業の賃金格差に配慮したようです。こうした動きが産業界全体に広がるかどうかも、16年春闘の注目点といえそうです。

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