大手酒造OBが挑む、地方酒蔵の再建
日本酒文化を愛する大手酒造OB、地方酒蔵の再建に挑戦―。中小酒蔵の経営支援を目的に大手酒造メーカー出身者らで立ち上げた夢酒蔵(京都市右京区、大邊誠代表取締役)が本格始動した。同社は月桂冠(京都市伏見区)元取締役の大邊氏らが立ち上げた会社。初の案件として、7月初旬に事業承継課題などを抱える老舗酒蔵の吉田酒造(滋賀県高島市)の全株式を取得。顧客開拓や技術、設備投資などの支援で3年をめどに経営改善させ、持続成長を目指す。(京都総局長・松中康雄)
吉田酒造は1877年(明10)創業。地元の食材に合う、しっかりとした味わいの日本酒「竹生嶋」を滋賀県高島市の地元を中心に展開している。1980年代後半に売上高は5000万―6000万円ほどの規模だったが、その後の地方の人口減や高齢化などで経営環境が年々悪化。地元以外の域外へと販路を広げたが、イベントや飲食店需要が激減したコロナ禍で売上高1000万円弱に減少して、赤字に転落。後継者難も抱える中、事業継続の可能性を模索していた。
夢酒蔵による吉田酒造の株式取得額は非公表だが、大邊氏が吉田酒造の社長も務める。
経営支援では、まずは秋冬の醸造、年内の販売に向け、大手酒造を定年退職したが、まだまだ活躍できる酒造りのマイスターが協力するほか、販売面でも夢酒蔵が酒造大手での経験などを活用し、都市部に加え、海外も見据えて販路拡大を図る。吉田酒造をまず、2023年9月期に売上高3500万円規模まで回復させて黒字化した上で、さらに向上させて3年後をめどに経営改善を達成し、飛躍させる計画。このほか、今後10年ほどの間に、5―6社の中小酒蔵への経営サポートにも取り組む方針だ。
夢酒蔵には、大手酒造メーカーの役職員やOBら計73人が出資する。加えて、京都銀行グループが出資運営する事業承継課題の解決に特化したファンド「京銀ネクストファンド」も出資している。
大邊氏は「酒蔵がある景色は日本の地方の原風景。事業継続に前向きな酒蔵の輝きを取り戻すべく、永続的な繁栄を支援する」と力を込める。地方の中小酒蔵の復興が日本酒業界、ひいては日本酒文化の継承には必要との考えで、積極的に応援していく構えだ。