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食用油・小麦が高騰も…価格転嫁に踏み込みきれぬメーカー・小売りの苦悩

食用油・小麦が高騰も…価格転嫁に踏み込みきれぬメーカー・小売りの苦悩

穀物の価格高騰で値上げが続く食用油

穀物や資源などの世界的な高騰を受け、食品の値上げが続いている。足元の円安が拍車をかけ、食用油や小麦に加え加工食品や飲料にまで値上げの波が押し寄せる。だが、穀物や資源などの輸入品の価格上昇に比べると消費者物価の上昇はごくわずか。メーカーや小売りは、価格転嫁に踏み込みきれないのが実態だ。(高屋優理)

【原材料調達コスト】大幅増避けられず

食品価格高騰の中心である食用油と小麦粉。2020年頃から続く穀物や原油などの相場上昇に、急激な円安やロシアによるウクライナ侵攻が拍車をかけている。原材料の調達コストの大幅増が避けられず、食用油では日清オイリオグループ、J―オイルミルズ、昭和産業の大手3社が21年4月納品分以降、計5回の価格改定を実施。店頭価格で21年比で1・5倍程度に上がっている製品もあり、家計を直撃している。

日清オイリオは今後の見通しについて、「(原材料高につながる要因として)ウクライナ危機やバイオ燃料需要など未経験のことも多く、製油事業のコスト環境は不透明な状況が続く」とする。 

小麦粉では日清製粉グループ本社、ニップン、昭和産業の製粉大手3社が、4月に政府売り渡し価格が17・3%と大幅に引き上げられたことに伴い、業務用小麦粉の価格を6月20日納品分から引き上げた。家庭用小麦粉についても7月納品分から値上げする。21年10月にも政府売り渡し価格が19%引き上げられており、大幅な値上げが2期続いている。

食用油や小麦粉など食品の原料の大幅な値上げが引き金となり22年に入り、冷凍食品などの加工食品やパン、菓子類などに値上げが波及している。

10月から値上げに踏み切るのが、ビール大手だ。ビール類(ビール、発泡酒、第三のビール)を4社すべてが足並みをそろえて値上げする。サントリーホールディングス(HD)は原材料価格について、コロナ禍前の19年の平均価格と3月の価格を比較し、アルミニウムが約1・9倍、麦芽は約2・1倍、原油価格は約1・6倍上昇していると分析。22年12月期の原材料価格の高騰による減益要因は200億円程度とみている。

アサヒグループホールディングス(GHD)は当初、22年12月期の原材料高による減益要因を400億円程度と見込んでいた。だが原材料高が続いていることから、さらに200億円程度悪化すると見込み、10月の値上げに踏み切った。

【単純な値上げ難しく】消費者、拒否反応強く

イオンはプライベートブランド(PB)「トップバリュ」に関し、「知恵と工夫の限界」(グループのイオントップバリュの土谷美津子社長)として4日から値上げを実施する。ただ値上げは、5000品目のうちマヨネーズ、即席麺、ティッシュペーパーの三つにとどまる。

値上げは幅広い品目に広がる(イメージ)

価格優位性を前面に押し出すPBにおける値上げの難しさを示す事例といえ、小売りの苦しい立場も示している。10月から値上げに踏み切るビール業界でも、アサヒGHDの勝木敦志社長は2月の決算会見で「単純な値上げは難しい」と述べ、買い控えへの強い懸念を示していた。

買い控えへの懸念は業界共通の認識でメーカーや小売りは、仕入れ価格の上昇分をまだ十分に価格に転嫁できていない。4、5月の輸入物価指数はそれぞれ前年同月比で42・2%増、43・3%増となったのに対し、消費者物価指数はいずれの月も同2・1%の伸びにとどまり、ギャップは大きい。

日本人の賃金は20年以上、同水準で推移している。消費者の購買力は高まっておらず、値上げに対して拒否反応は強い。始まった食品値上げラッシュが、こうした日本人のデフレマインドに変化をもたらすのかも注目される。

日刊工業新聞2022年7月1日

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