TDKにとってエプコス買収は何だったのか

子会社エプコスがクアルコムと高周波部品で合弁。株式売却のオプションも

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自動車分野を攻めるTDKと村田製作所。左は上釜社長、右が村田の村田恒夫社長
 TDKと米クアルコムは13日、スマートフォンの中核部品である高周波(RF)部品事業の合弁会社を設立すると発表した。クアルコムが51%、TDKの完全子会社である独エプコスが49%を出資する。2017年初めまでの手続き完了を目指す。高周波部品は通信の高速化などを背景にモジュール(複合部品)化が進む。TDKはクアルコムと手を組み複合部品の開発を効率化するとともに、自動車や産業機器、ロボットなど成長市場の製品開発に経営資源を集中させる。

 新設する合弁会社は「RF360ホールディングス」でシンガポールに法人登記し、本社機能はドイツのミュンヘンに置く。合弁会社でスマホの通信に必要なRFフロントエンドモジュール(複合部品)や、RFフィルターなどの高周波部品を手がける。
 合弁会社に移るTDKの高周波部品事業の売上高は約1200億円。エプコスは手続きが完了してから30カ月後に合弁会社の株式をクアルコム側に売却できるオプションを保有する。

 上釜健宏TDK社長は同日開いた会見で「スマホ依存度を落とし、成長市場を攻めていくうえで、高周波部品事業が好調な今が、一番いいタイミングだと思った」と合弁会社設立の狙いを強調した。クアルコムとは今後、自動車の非接触給電システムやセンサーなど非スマホ分野でシナジー創出を目指す。これらにより「2021年に営業利益率15%以上、ROE(株主資本利益率)で15%以上を目指す」(上釜社長)とした。

「スマホの次へ」構造改革進む


日刊工業新聞2013年10月29日付「深層断面」から抜粋


 TDKが新たな成長への軌道を進み出した。国内工場の集約や人員削減という苦難を乗り越え、さらに大金を投じて買収したものの採算悪化に苦しんできた子会社の独エプコスもテコ入れによって黒字が定着。スマートフォン向けの受注も上向き出した。

 「エプコスの改革は順調に進んでいる」―。TDKの上釜健宏社長は毎週、欧州から送られてくるリポートを詳細にチェックする。そこにはTDKの技術者がエプコスの工場に生産プロセス技術を移管するプロジェクトの進捗(しんちょく)状況が記されている。

 エプコスは2008年にTDKが約1700億円を投じて買収したドイツの名門企業。巨額を投じてまで手に入れた狙いの一つは携帯電話向けの商圏拡大だ。ところが最大顧客であるフィンランドのノキアがスマホへの事業転換に遅れ、引きずられるようにエプコスの業績が低迷。

 その間に、電子部品専業で事業構成も近い“ライバル”村田製作所の電子部品が米アップルや韓国サムスン電子などに次々と採用されていった。13年3月期の売上高営業利益率はTDKが2・5%に対し、村田製作所は8・6%。この収益力の差は受動部品事業の力関係に直結する。

 潮目が変わったのは昨年から。エプコスのトップが交代したのを機に、TDKのガバナンス力が効き始める。「製品開発のアイデアや設計力は世界トップクラスだが、生産技術は我々の方が上だった」(上釜社長)。これまでなかなかメスを入れられなかった生産プロセスの改善に着手。7月にはTDKから生産技術の精鋭達をエプコスの拠点に送り込んだ。

 「半導体メーカーと、もっと協業しろ。今のままでは手ぬるい」。上釜社長のげきが飛ぶ。スマホ向け部品専門の営業部隊を増員し、ここにきて新興スマホメーカーからの受注が広がっている。エプコスが手がける表面弾性波(SAW)フィルターの生産能力を前年度比2倍に増強した。「受動部品事業の収益改善にようやくめどがついた」(上釜社長)。

 TDKは業績の低迷を受けて国内外で拠点統廃合や人員削減といった大規模な構造改革を実行した。国内では、これまでに東北地方に19ある工場のうち、秋田県で積層セラミックコンデンサーなどを生産する子会社のTDK羽城工場やTDK―MCC象潟工場など4工場を閉鎖。正規雇用を含めて約1万1000人の人員削減も断行した。

 同時に有機EL事業の売却や磁気テープ事業からの撤退など不採算事業見直しにも手を付けた。こうした痛みを伴う改革を経て業績も改善に向かっている。

本当の勝負は自動車


 TDKはスマホ向け事業の立て直しを図っているが、実は本当の勝負は自動車と踏んでいる。自動車の電子化が進み、自動車に搭載される電子部品の数は大幅に増える。車載用の受動部品市場で高シェアを握るTDKはここにきてさらに差をつけようと攻勢を強めている。

 今年に入り、リチウムイオン二次電池(LIB)事業に参入。05年に買収した中国・アンペレックス・テクノロジーがLIBを開発し、中国・北京汽車の電気自動車(EV)向けに供給を開始した。LIB自体の供給拡大はもちろん、これをきっかけに中国の自動車メーカーに電子部品を拡販できる可能性も出てくる。

また、スマホ向けで足を引っ張っていたエプコスは欧州の大手自動車関連企業のほとんどに部品が採用されており、本来の実力が生きてくるのは自動車の電子化が進むこれからだ。
(文=下氏香菜子)

 

日刊工業新聞2016年1月14日4面

COMMENT

明豊
デジタルメディア局
局長

TDKは独エプコス買収後、マネジメントにほんとに苦労した。ようやくこなれてきたのはこの2、3年くらい。ちょうどそのタイミング(13年10月)でTDKの特集を掲載している。 エプコスを有効活用する意味で今回の事業提携は悪いスキームではないと思う。

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