「EV」「水素」に照準…エンジンの主力部品メーカーは変革期を商機にできるか
リケン、TPR、日本ピストンリングのピストンリング大手3社が、次世代車両向け部品の開発を進めている。既存のエンジンを搭載する自動車のピークアウトを見据え、エンジンの主力部品であるピストンリングに依存した事業構造を転換する。エンジン部品を主力とする各社は既存の技術や知見を生かし、新たな成長の柱を育成する。業界の変革を商機と捉える動きが、エンジン部品メーカーに広がってきた。(増田晴香)
リケンは水素エンジン分野に参入する。5月に柏崎事業所(新潟県柏崎市)内の拠点で同エンジンの実機評価を始めた。水素エンジンの基本構造はガソリンエンジンとほぼ同じで、内燃機関部品の技術を生かせると判断。「すでに国内外の複数メーカーのプロジェクトで引き合いがあり、評価を受けている」(リケン)という。
高出力も見込めるため、トラックなどの大型車や船舶、建設機械向けでも普及を期待する。実機評価で得たデータをもとに、水素エンジンに改造する事業などを検討する。
TPRは2024年度までに約300億円の戦略投資を実施し、次世代車対応の表面処理や金属部品の軽量化に資するゴム樹脂など、七つの新分野案件に注力する。具体策として4月に、中国の安徽環新集団(ARN)と合弁で同国安徽省に技術センターを稼働。焼結技術を活用したEV向け部品や磁性体などの開発に着手した。
新事業で40年までに、売上高500億円、営業利益50億円の目標を公表。「パワトレ(駆動系)事業と非パワトレ事業でバランスの取れた成長を目指す」(矢野和美社長)としている。
日ピスは、独自の高性能射出成形粉末冶金法「メタモールド」を新分野に提案する。同技術は多様な金属で、複雑形状の部品を大量生産することが可能。「最近では水平多関節(スカラ)ロボットや電動パワーステアリングのボールネジ部品向けに引き合いが高まっている」(高橋輝夫社長)という。
形状や材料の自由度を強みに、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)関連部品やロボット、医療での採用につなげる。
矢野経済研究所によれば、30年の新車販売に占める電動車比率は約5割を見込むが、純粋なEV比率はおよそ3割にとどまるとみられる。とはいえ、世界的な脱炭素の流れを受け、自動車の主要市場で電動化や脱炭素化が加速しており、将来の需要縮小は避けられない。残された“猶予”を生かし、各社は次世代技術の開発を急ぐ。