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【業績50社一覧】原料高・部材不足・中国都市封鎖…「減速」鮮明、電子部品業界の行方

電子部品分野の上場企業50社の決算は、2023年3月期の連結業績予想を発表している49社のうち、当期損益を増益(黒字転換含む)としたのは32社で、45社だった前期からの減速が鮮明だ。原材料高や半導体不足、中国の都市封鎖(ロックダウン)などで先行きへの慎重な見方が広がっていることが背景にある。中長期での成長を睨み投資を緩めない企業も依然多いが、企業規模拡大と投資効率向上の両立がこれまで以上に求められそうだ。(山田邦和、阿部未沙子、新庄悠)

増収減益型拡大 脱炭素などで構造変化

49社の当期損益予想の合計は前期比3・2%増の1兆5918億円。22年3月期実績は21年3月期比67・8%増となっており、増益率は大幅に縮小する見通しだ。

当期減益を想定するのは17社。前期にあった一過性の利益が今期はなくなるなどのケースを除くと①原材料高②半導体などの部材不足③中国でのロックダウンや世界的なインフレ進行に起因する景気の減速懸念―が複合的に影響を及ぼすとみる。

原材料高の影響を象徴するのが、「増収減益型」の多さ。17社中16社が該当する。FDKは主力のニッケル水素電池やリチウム一次電池の材料であるニッケル、亜鉛、レアアースなどの値上がりが営業利益を約12億円押し下げると見る。一部材料を先行手配できていた前期は、同要因による営業利益の押し下げは約7億円に留まっており、影響が拡大する。帝国通信工業も可変抵抗器(回路に流れる電気の量を調整する部品)の基板などに使う樹脂の値上がりが利益を圧迫する。

原材料高の一因はウクライナ危機だが、より根本には脱炭素の流れが原油・ガスの新規投資を抑制し、エネルギーの価格高騰を招く「グリーンフレーション」や、電池材にニッケルを使用する電気自動車(EV)の増加による需給のタイト化など構造的な状況があり、各社は対応に追われる。FDKは材料調達先の拡大に加え、付加価値が高く、材料市況の影響も受けにくい次世代電池の投入を急ぐ。産業用スイッチ大手のIDECは前期から部材価格上昇分の転嫁に取り組んでいる。

半導体不足も業績の下押し要因だ。ホシデンは22年3月期、新型コロナの感染拡大でベトナム工場が一時稼働停止し、売上高が21年3月期より減少した。今期は通常操業を見込むため増収となるが、ブルートゥースモジュールに組み込む半導体などの価格が供給逼迫(ひっぱく)を背景に高騰し、減益となる。

中国・上海で続くロックダウンの打撃も懸念材料だ。I―PEXは現地の自社工場の操業度が低下し、顧客企業の工場も影響を受けている。決算発表時にはロックダウン解除時期が不明だったため、「業績予想に影響を織り込めていない」(IR担当者)。今期増収増益を計画するオムロンも、上海のロックダウンが売上高で100億円、営業利益で40億円の押し下げ要因になると見込む。

増益企業間でも格差 高シェア製品カギ

増益を見込む企業間でも利益率には差が出始めている。23年3月期の売上高当期利益率は49社平均で約6・6%。増益予想企業32社の中で平均を上回るのは15社に留まる。10%以上はさらに少なく、村田製作所(約17%)など5社に限られる。13社が10%以上を確保した前期と対照的だ。

こうした状況は21年3月期以前に戻っただけとも言える。リーマン・ショック前のピークから19年3月期までの電子部品業界は、年平均10%超の増益を続ける企業グループと、数%未満の企業グループに二分化していた。コロナ禍でいったん業績は落ち込んだが、その後需要の回復・拡大局面で両グループともに高い増益率を達成した経緯がある。

外部環境が不透明さを増す中、今期は高シェア製品をどれだけ持っているか、顧客基盤をどれだけ広げられたかなど、各企業の地力が改めて問われる。

今後の需要については、楽観と悲観の両方の予想がある。電子部品メーカーの間では「半導体不足などの解消に伴って伸びていく」(村田製作所の村田恒夫会長)との見方が多い。帝国通信工業は、売り上げを伸ばすための先行投資を今期の減益見通しの一因とする。

だが、こうした強気の見方に懸念を示す市場関係者は多い。足元の需要は「供給網の混乱を懸念した顧客による在庫の積み増しに支えられている面があり、実需との乖離(かいり)が進んでいるのではないか」(業界関係者)との指摘がある。

想定を超える環境悪化に見舞われれば、増益予想企業にも影響が及びかねない。

問われる投資効率

「パッケージ事業に投資して何を目指しているのか」。4月に行われたイビデンの決算会見で出席者からこんな質問が飛んだ。同社は今期、エネルギーや物流コスト増などを理由に、4期ぶりの営業減益を想定している。質問は減益計画の中でも積極投資を続ける理由を問うものだった。

イビデンはIC(集積回路)チップとプリント配線板をつなぐ半導体パッケージ基板の世界首位メーカー。青木武志社長は「トップの地位を維持するための先行投資。今はめいいっぱいアクセルを踏んでいる。投資一巡後は一気に利益が増える計画だ」と理解を求めた。

世界シェア首位で前期にROA(総資産利益率)で上場企業平均(5%)を超える6・2%(推定)を達成したイビデンでさえ、投資効率について市場から厳しい目を向けられる局面に入った。

規模拡大に見合う利益を生んでいるか、販売数量増による増益効果を上回る増産投資になっていないか、電子部品メーカーは今まで以上に問われることになりそうだ。

日刊工業新聞2022年5月30日

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