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大川印刷は温室ガス排出「ゼロ」インキをどう実現したか

大川印刷(横浜市戸塚区、大川哲郎社長)は、温室効果ガス排出量を実質ゼロ化したインキの調達を始めた。自社工場は再生可能エネルギー由来電気を活用しており、取引先にも“排出ゼロ”を呼びかけたところ成東インキ製造(東京都世田谷区、出川秀敏社長)が応じた。中小企業同士の連携により、取引先も含めたサプライチェーン(供給網)全体の排出ゼロに向けて動き出した。

成東インキ製造は原料調達や製造、大川印刷への輸送で発生する二酸化炭素(CO2)量まで計算し、排出量をゼロ化した。他の場所でのCO2削減の価値を入手し、自社の排出量を埋め合わせするカーボンオフセットの手法を活用。価値は、青森県上北森林組合が実施した設備更新による削減成果を国の「J―クレジット」制度を通じて購入した。

成東インキのCO2削減効果は年7000キログラム。大川印刷が購入するインク全量に関連したCO2量の31%に相当する。大川印刷の顧客も印刷物の発注に伴う排出量を削減できる。

大川印刷は19年、本社工場に太陽光パネルを設置し発電した電気の利用を開始。不足する電気も再生エネ由来を購入して「再生エネ100%印刷」を実現した。25年までにサプライチェーンを含めた「スコープ3基準」での排出ゼロを目指し、取引先との勉強会で対応を検討してきた。

大企業も次々と再生エネ由来電気の活用を始めており、次の段階として取引先を含めた脱炭素が課題となっている。米アップルはサプライチェーンに呼びかけ、世界213社が再生エネ利用を表明した。大川印刷と成東インキは中小企業同士が連携した脱炭素化の先例となりそうだ。

日刊工業新聞2022年5月16日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
中小企業が連携した脱炭素の事例です。上場企業は「クレジット利用のオフセットはどうか」という議論がありますが、中小企業なら前向きな排出ゼロの取り組みが評価され、しっかりと取引が継続される商習慣が定着してほしい。取引継続というわかりやすいインセンティブがあれば、サプライチェーン全体での脱炭素が広がると思います。

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