若手のアイデア生かすシャープの取り組みが実を結び始めた
シャープが力を注ぐ、若手社員のアイデアを事業化につなげる取り組みが実を結び始めた。人工知能(AI)とIoT(モノのインターネット)を活用し、冷蔵庫や洗濯機などの家電をクラウドのAIとつないで利便性を向上させる機能の「AIoT」をベースに、家電ではない分野のソリューション創出が進む。注目株は、呉柏勲最高経営責任者(CEO)が「経営の主軸にしたい」と定めたデジタルヘルス分野だ。(大阪・大原佑美子)
デジタルヘルスはデジタル技術を活用して健康維持を図る行為を指す。シャープは2018年末、人の咀嚼(そしゃく)情報を数値化・分析し、食育や健康増進につなげるソリューション「バイトスキャン」の提供を研究者向けに始めた。入社3年目研修で社員から出たアイデアが高評価を得て、事業化した珍しいケースという。
バイトスキャンは、耳にかけるデバイスとスマートフォンで利用するアプリケーション(応用ソフト)で構成。耳裏の動きをセンサーで感知し、食事の際のかむデータを自動で記録、蓄積する。回数やテンポ、食事時間などの可視化により普段は意識しない食べ方に気付け、続けることで良い咀嚼の習慣が身に付く仕組みだ。発売から3年強で歯医者や食品メーカーなどに500台以上を納入。22年度以降は一般向けにも発売を予定する。
シャープはバイトスキャンの事例を機に19年秋、新分野における価値創造を推進する「新規事業企画開発部」を発足。現在も複数のプロジェクトが進む。
IoT収納ケースを用いて生理用品の使用状況をセンシングし、用品の在庫管理と月経周期の自動記録ができるサービスは、21年当時入社6年目だった女性社員の発案だ。目下、23年度の事業化に向けて準備中という。
同事業は、経済産業省の21年度「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」を活用。働く女性に試作品のケースと連携アプリを体験してもらい、ニーズ調査や健康管理の手間軽減、ヘルスリテラシー向上の可能性を探る実証を行った。人によって使う生理用品が違い、周期も多様で「周期予測のアルゴリズム(計算手順)の構築が難しい」(同社)といった課題も出てきた。こうした課題解決に向け、22年度も別のテーマでの実証を予定している。
シャープが目指すのは、単なるデバイスやセンサー付きケースといった便利な新商品ではなく、各機器などから得られたビッグデータを分析・活用することで人々の健康維持を助けるという価値の提供だ。呉CEOが唱える“主軸となる事業”を見据える。
同社はAIoTをベースとした新ソリューション事業を早期に年100億円規模に育てる絵を描く。潜在的なニーズを捉え、代名詞である液晶に次ぐソリューション事業を生み出せるか。発想と目利きが問われている。