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キヤノン御手洗会長が考える「ステークホルダー論」

なぜ優良銘柄で居続けられるのか
キヤノン御手洗会長が考える「ステークホルダー論」

現場との風通しの良さが「透明度の高い経営」の源泉だ。生産拠点の長崎キヤノンを視察する御手洗会長

 キヤノンとステークホルダーというキーワードからは、強靱(きょうじん)な財務体質と、それを基盤とした手厚い株主還元のイメージが思い浮かぶ。しかし御手洗冨士夫会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)は「最も関心を持ち大切にしているステークホルダーは、社員だ」と断言する。その姿勢が「優良銘柄」を支える根幹になっている。

 キヤノンの企業理念は全ての人類が末永く共に生き、共に働き、幸せに暮らす社会を目指す「共生」だ。この理念は、経営層と社員との距離の近さからも垣間見える。

 昨年12月の賞与支給日、下丸子の本社で御手洗会長が部長以上の幹部社員一人ひとりと握手する恒例行事が行われた。「みんなの様子が分かるし、直接顔を見るのが好きなんだ」(御手洗会長)。

 社員とのコミュニケーションを重視し、毎月約1200人の幹部社員と30人ほどの労働組合幹部らに対し、御手洗会長が前月の経営実態を報告。さらに毎年、新年度が始まる1月から2カ月間かけて自ら十数カ所の重要拠点を訪れ、現場を見て回る。御手洗会長は「社員と経営陣の距離を縮める努力は、古くからの伝統だ」と胸を張る。役員食堂がなく、社員と経営陣が同じ場所で食事をする、といったエピソードも、その象徴だ。

 社員が生き生きと働ける会社は発展し、ひいては「共生」の社会を実現する源となる―。取り組みの根底にはこういった考えがある。経営の透明性を高めることで経営陣と従業員の距離を縮め、経営ポリシーを正確かつスピーディーに伝える。会社の向かう方向性を理解してもらうことは、モチベーション向上にもつながる。

 社内の好循環は、地域や社会との共生にも波及している。印刷技術を生かし、びょうぶやふすま絵といった文化財を高精度に複製して保護につなげる「綴(つづり)プロジェクト」などが代表例だ。

今は事業構造の転換に挑む過渡期でもある。従業員との一体感の醸成が新たな発展に挑む源泉となる。

※日刊工業新聞では毎週木曜日に「不変と革新パート3―絆編」を連載中
日刊工業新聞2016年1月7日4面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
キヤノンは業績が安定していて取材対象としては少々面白みにかけるところもある。なのかもしれないが、何となく無機質な会社のように映るかもしれないが、実はとても人間臭い会社である。事業面でも昨年アクシスを買収したが、次の大型M&Aに注目。

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