航空機で広がる中堅・中小企業の「共同受注」や「部品一貫生産」
発注者の三菱重工や川崎重工が背中押す。高コスト体質是正へ
2016年は航空機関連の中堅・中小企業が部品の共同受注や一貫生産体制の構築を本格化する年となりそうだ。秋には三菱重工業のサプライヤー10社でつくる「航空機部品生産協同組合」が三重県松阪市で航空機部品の製造を始める。川崎重工業のサプライヤーも投資負担のかさむ表面処理設備などを共同利用するプロジェクトを進める。長年、航空機産業が指摘された「高コスト体質」からの脱却に向けた取り組みが動きだす。
暮れも押し迫った15年12月中旬。岐阜市内に航空機の部品製造などを手がける全国22の航空機関連の中小企業団体が集まった。「国内航空機産業クラスターフォーラム」。中部経済産業局が主催したもので、2日間の日程で共同受注の体制づくりや品質保証のあり方などを議論した。全国の「クラスター」同士の連携を加速することも確認し合った。
航空機産業では複数企業による一貫生産体制の構築に向けた動きが具体化している。中部地域を中心とする中堅・中小企業10社でつくる「航空機部品生産協同組合」は三菱重工の後押しを受け、同社松阪工場(三重県松阪市)に機体部品の”共同工場“をつくる。10社が生産設備などを出し合い、16年後半の製造開始を目指す。
共同工場では、製造にかかるフロータイム(材料仕入れから部品完成までの時間)を従来の半分以下の3―5日に抑え、業界の商習慣である単一工程ごとの「ノコギリ発注」から脱却するという。
一方、川重の協力会社で構成する「川崎岐阜協同組合」は、中核企業である天龍エアロコンポーネント(岐阜県各務原市)が表面処理、非破壊検査、塗装といった工程を担う工場を同社敷地内に新設。組合各社がこれを活用する取り組みを進める。
一貫生産の流れは航空機のエンジン部品でも始まっている。三菱重工航空エンジン(愛知県小牧市)はエンジンの「タービンブレード」の一貫生産を放電精密加工研究所に委託。今後も平和産業(東京都港区)に「燃焼器ケース」、光製作所(岐阜県笠松町)に「燃焼器ライナー」を委託する。
こうした一貫生産は海外では通常の仕組みとされる。三菱重工航空エンジンの島内克幸社長は「将来は彼ら(サプライヤー)自身が海外から受注してほしい」とし、一貫生産の構築によって協力企業がグローバルに展開することを期待する。
ここにきてサプライチェーンの高度化が進むのは、航空機産業の受注量が増えて部品をたくさん作る必要があるのに加え、顧客からの強いコストダウン要請も関係する。米ボーイングと欧エアバスの受注競争が激しくなり、販売価格の値引き幅が拡大している。
関係者によれば、ボーイングは20年の就航を目指す次世代大型機「777X」の生産で、三菱重工や川重に対して現状から15―20%のコストダウンを求めたという。
こうした中で開かれた12月中旬のクラスターフォーラム。非公開の会合では、企業団体の中でも製品の品質についてどの会社がどう保証するのか、発注書の管理といった間接業務をだれが負担するかなど、具体的な課題を話し合ったもようだ。
日本航空宇宙工業会(SJAC)がまとめた国内大手24社の生産額見通しによると、2015年度の日本の航空機関連生産額は1兆7675億円と過去最高になる見通しだ。16年には日本企業が機体の35%、エンジンの15%を生産するボーイングの中大型機「787」の月産機数が現在の10機から12機に引き上げられる予定。17年からは777Xの試験機製造も始まる。生産額の伸びは続くと見られる。
一方で、東南アジアなど新興国も航空機産業を強化しており、高コスト体質から脱し切れなければ、金属加工などの仕事が海外に流れる恐れもある。日本企業にとっては一貫生産体制の構築で需要増をさばけるかどうかが、将来の競争力を左右しそうだ。
(文=名古屋・杉本要)
クラスターも連携
暮れも押し迫った15年12月中旬。岐阜市内に航空機の部品製造などを手がける全国22の航空機関連の中小企業団体が集まった。「国内航空機産業クラスターフォーラム」。中部経済産業局が主催したもので、2日間の日程で共同受注の体制づくりや品質保証のあり方などを議論した。全国の「クラスター」同士の連携を加速することも確認し合った。
航空機産業では複数企業による一貫生産体制の構築に向けた動きが具体化している。中部地域を中心とする中堅・中小企業10社でつくる「航空機部品生産協同組合」は三菱重工の後押しを受け、同社松阪工場(三重県松阪市)に機体部品の”共同工場“をつくる。10社が生産設備などを出し合い、16年後半の製造開始を目指す。
共同工場では、製造にかかるフロータイム(材料仕入れから部品完成までの時間)を従来の半分以下の3―5日に抑え、業界の商習慣である単一工程ごとの「ノコギリ発注」から脱却するという。
一方、川重の協力会社で構成する「川崎岐阜協同組合」は、中核企業である天龍エアロコンポーネント(岐阜県各務原市)が表面処理、非破壊検査、塗装といった工程を担う工場を同社敷地内に新設。組合各社がこれを活用する取り組みを進める。
一貫生産の流れは航空機のエンジン部品でも始まっている。三菱重工航空エンジン(愛知県小牧市)はエンジンの「タービンブレード」の一貫生産を放電精密加工研究所に委託。今後も平和産業(東京都港区)に「燃焼器ケース」、光製作所(岐阜県笠松町)に「燃焼器ライナー」を委託する。
こうした一貫生産は海外では通常の仕組みとされる。三菱重工航空エンジンの島内克幸社長は「将来は彼ら(サプライヤー)自身が海外から受注してほしい」とし、一貫生産の構築によって協力企業がグローバルに展開することを期待する。
15―20%のコスト低減要請
ここにきてサプライチェーンの高度化が進むのは、航空機産業の受注量が増えて部品をたくさん作る必要があるのに加え、顧客からの強いコストダウン要請も関係する。米ボーイングと欧エアバスの受注競争が激しくなり、販売価格の値引き幅が拡大している。
関係者によれば、ボーイングは20年の就航を目指す次世代大型機「777X」の生産で、三菱重工や川重に対して現状から15―20%のコストダウンを求めたという。
こうした中で開かれた12月中旬のクラスターフォーラム。非公開の会合では、企業団体の中でも製品の品質についてどの会社がどう保証するのか、発注書の管理といった間接業務をだれが負担するかなど、具体的な課題を話し合ったもようだ。
生産額伸び続くも・・
日本航空宇宙工業会(SJAC)がまとめた国内大手24社の生産額見通しによると、2015年度の日本の航空機関連生産額は1兆7675億円と過去最高になる見通しだ。16年には日本企業が機体の35%、エンジンの15%を生産するボーイングの中大型機「787」の月産機数が現在の10機から12機に引き上げられる予定。17年からは777Xの試験機製造も始まる。生産額の伸びは続くと見られる。
一方で、東南アジアなど新興国も航空機産業を強化しており、高コスト体質から脱し切れなければ、金属加工などの仕事が海外に流れる恐れもある。日本企業にとっては一貫生産体制の構築で需要増をさばけるかどうかが、将来の競争力を左右しそうだ。
(文=名古屋・杉本要)
日刊工業新聞2016年1月4日3面