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量子ネットワーク実現へ、「光子の生成・制御技術」の世界

量子情報科学は情報理論と量子力学が出会うことで誕生した分野である。量子力学の性質を巧みに活用することで、通常の情報処理技術では達成できない機能がこれまでに数多く提案・実証されている。特に、近年では量子コンピューター開発の急速な進展に伴い、同分野全体において開発競争が激化している。

現在、量子情報科学分野での大きな目標となっているのが、お互いに離れた量子デバイス同士を量子もつれによって接続する量子ネットワークの実現である。量子もつれは古典物理学では説明できない量子的相関のことで、それを離れた通信ノード間で共有することにより、分散・秘匿量子コンピューティングや超高精度時刻同期などの量子情報処理が実行可能となる。

新規開発した超高速量子もつれ光子対源の概念図(NICT提供)

量子情報を担うのは原子や電子、光といったさまざまな量子系だが、量子通信に利用できるのは光の量子である光子だけである。つまり、量子ネットワークの構築には光子の生成・制御技術が不可欠である。

情報通信研究機構(NICT)量子ICT研究室の研究グループは、これまで導波路型非線形光学結晶を用いた量子もつれ光子対源の開発を行ってきた。量子もつれ光子対源に求められるのは、量子もつれ光子対の質を落とさずに高度化することである。我々は、フォトニクス実験で使用される高速変調技術を高効率な導波路型非線形光学結晶と組み合わせることにより、通信波長帯の超高速量子もつれ光子対源を新規開発することに成功した(図参照)。これにより、ギガヘルツ超(ギガは10億)のクロックレートで質の高い量子もつれ光子対の生成が可能となり、光量子情報処理の高速化が期待できる。

量子ネットワークの実現には、このような光量子制御技術の高度化に加え、量子メモリや量子インターフェース技術の研究開発が必要である。我々は、今後もこれら量子技術の研究開発を総合的に推進していく。

未来ICT研究所・小金井フロンティア研究センター 量子ICT研究室 テニュアトラック研究員 逵本吉朗
阪大院博士課程修了。その後、NICTで量子もつれ光子対源の開発やそれを用いた量子プロトコルの実証実験に関する研究に従事。博士(理学)。

日刊工業新聞2022年3月8日

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