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【2016を読む】日米中の新車販売、どこの市場がけん引するのか

【2016を読む】日米中の新車販売、どこの市場がけん引するのか

新型プリウス。市場全体の活性化が期待される

 米国が活況を呈した一方で、日本や新興国が低迷した2015年の新車市場。今年はこの流れをどのように引き継ぐのか。16年の主要国の市場を占う。

<日本>駆け込み需要で微増


 自動車産業情報サービスのマークラインズは16年の国内市場を前年比2%増と見込む。17年4月の消費増税に伴って「駆け込み需要が一定程度期待される」(同社)。14年の前回の消費増税後の低迷からようやく持ち直す格好だが、水準は高くなく厳しい情勢は続きそうだ。

 その中でも、販売量を稼ぎそうな目玉車種は、トヨタ自動車のハイブリッド車(HV)「プリウス」の新モデルだ。IHSオートモーティブの川野義昭マネージャーは年20万台の販売が見込まれるとした上で、「16年通年で市場全体の活性化に大きく効く」と指摘。トヨタが12月に公表した16年の世界販売計画によると、国内は3%増の155万台の見通し。トヨタはプリウス以外にも売れ筋の新型車も投入するとみられ、16年は国内市場の牽引(けんいん)役を担いそうだ。

 もう一つのポイントは軽。15年は軽自動車税の増税を受け、軽市場は11月まで11カ月も前年同月割れが続いている。川野氏は「次の消費増税の駆け込みを考えれば15年の落ち込みからは脱却するだろう」と話し、軽市場は微増と見通す。

 15年に軽市場が落ち込んだのは、ダイハツ工業スズキが14年度末まで繰り広げたシェア争いの反動との見方も多い。足元では当時ほど販売競争は過熱していないようだが、ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表は「1―3月に競争が再燃する可能性がある」と指摘する。

 15年1―11月の両社の軽の累計販売を見ると、ダイハツが約4万台上回っており、暦年の勝敗はもう決まっている。しかし4―11月の累計販売で見ると、その差はわずか800台。スズキに年度での販売首位の座の可能性が残っており、競争の火種は残っているとの見方だ。軽2強の販売合戦が再燃すれば、軽市場が拡大する可能性もある。

<米国>燃料安・好景気で好調


 ガソリン安や好景気を受けて米国市場は16年も伸びそうだ。日本自動車工業会の池史彦会長が「米連邦制度理事会(FRB)が金利引き上げに踏み切ったのは経済の底堅さの裏付けであって、米国市場は今後も堅調に推移するだろう」と指摘するように業界内では楽観的な見方が多い。だが不安材料がないわけではない。

 中西代表によれば16年市場の見方は、1750万―1820万台と専門家の間で幅があるが、その中で中西代表は最も堅い1750万台程度と見込んでいる。保守的な見方の一因が米国の販売金融事情と利上げだ。米国市場の好調の背景にはガソリン安や好景気があるが、自動車ローンの低金利化や長期化もある。

 ニューヨーク連邦準備銀行によると家計債務のうち自動車ローン残高は15年に1兆ドルの大台を突破。自動車ローンに占める信用力の低いサブプライムローンの比率は増加傾向にある。

 リーマン・ショックはサブプライム層の住宅ローンが引き金となったが、自動車ローンは家計負担が住宅ほど重くなく、かつての金融危機が再燃するとの見方はあまりない。だが、中西代表は「利上げの影響で揺り戻しが来るのか、サブプライムローンがコントロール下にあるのか。利上げのペースにもよるが、それがまだ見通せない」と保守的な見通しの根拠を説明する。

 FRBの利上げが自動車ローンの金利上昇につながると、サブプライム層の需要減退を招く恐れがある。積極的な貸し出し姿勢が変化する可能性もある。米国の旺盛な需要は各メーカーの好調な業績を支えているだけに注目される。

<中国>減税策が奏功し堅調


 15年に変調をみせた中国市場が急回復をみせている。中国自動車工業協会(CAAM)によると、景気減速や株価下落で8月まで5カ月連続で前年同月割れとなったが、9月に増加に転じ、10月は同11%増、11月には同20%もの伸びを示した。これは10月から始まった自動車取得税の減税策が大きい。

 フォーインによれば、16年の中国市場は前年比6%増の2607万台と堅調に伸びる。中国では10月から排気量1600cc以下の乗用車を対象に、16年末まで自動車取得税の税率が10%から5%に半減されることになった。同社中国調査部の平野孝治氏は「減税の対象となるCセグメントの販売が拡大するだろう」と指摘する。

 さらに中国で活況を呈しているスポーツ多目的車(SUV)ブームも引き続き市場を牽引しそうだ。市場が陰りをみせる中、SUVセグメントの15年1―11月の販売累計は前年同期比5割もの伸びを示した。

 高いシート位置から得られる優越感や、セダンより高めの価格設定、週末に郊外に家族で出かけるといった利用シーンに適した使い勝手の良さなどのSUVの特徴が、経済発展とともに購買力を増した若年を中心にとした客層の心を捉えている。「15年ほどの伸びが続くとは思わないが、16年もSUVが市場を牽引することは間違いない」と平野氏は話す。

 商用車市場は、新たな排ガス規制がスタートしたことを受けて前年同月割れが続き、中国市場全体の足を引っ張っていたが、これも緩和されそうだ。平野氏によれば「ネットショッピングの普及などで物流トラックの需要が伸びており、商用車市場は下げ止まって今年は横ばいとなる」見通し。
(文=池田勝敏)
日刊工業新聞2016年1月1日自動車面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
新車販売の状況は大して変化はないだろう。ただ中国は地場メーカーの淘汰やグローバル再編に注目。あとは各市場でVWの不振をどこがとるのか。また自動運転など次世代技術の投資や連携でどう布石を打つかも注目。フォードとグーグルが提携することになれば、一気にアライアンスが動きだす可能性もある。「自動車✖IT」の組み合わせもそう選択肢が多いわけではない。それに連動する話でもあるが、現在の車種のプラットフォーム化もより進むはず。部品メーカーへの余波は必死。

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