【2016を読む】続・日本は“世界屈指のロボット社会”を実現できるか
産業ロボット編ー。IoTやAI技術取り込む
**インダストリー4・0に対応
工場で活躍する産業用ロボットのメーカーは、ベンチャー企業など外部との連携を加速させている。
ドイツの産業施策「インダストリー4・0(I4・0)」など製造業革新の動きに対応するため、モノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)といった先端技術を取り込む目的が一つ。また、一般産業分野などの新たな工場自動化(FA)市場を開拓するため、ロボットを“より使いやすく”する狙いもある。16年は以前にも増してロボットメーカー絡みの協業案件が目立ちそうだ。
国内外の産業用ロボット大手が、“オープン戦略”に方針転換し始めている。例えば、欧州市場で高シェアを誇るドイツのクカ。15年5月に、オーストリアのTTテックと協業開始することを発表した。「(TTテックが得意とする)分散型クラウドの技術を応用することにより、ロボット同士が協調する次世代のシステムを生み出せる」とクカのハインリッヒ・ムンツ指導設計士は協業の狙いを説明する。
国内大手のファナックもこれに続いた。同年6月に東京大学発ベンチャーであるプリファード・ネットワークス(PFN、東京都文京区)との提携を発表。その後、PFNに出資することも決め、業界関係者らを驚かせた。ファナックが外部のベンチャー企業に出資するのは異例の出来事だった。
両社を突き動かしているのが、I4・0に代表される製造業革新の動きだ。自律的に生産する次世代工場「スマートファクトリー」の重要要素として期待されるロボットだが、まだ適用範囲は限られ、IoTやAIなどによる進化を望む声は多い。こうした要求に応えるには「自社の力だけでは困難」というロボットメーカー側の危機感が、外部との協業という形になって表れている。
また、「産業用ロボットはもっと使いやすくなるべきだ」という要求も根強い。動作の設定などはロボットに不慣れな新規ユーザーにとってハードルが高く、改善の余地が多分に残されている。
こうした課題に対して、新たな動きをみせているのが川崎重工業だ。16年度中をめどに、自社製ロボット制御ソフトウエアの開発環境を一部公開する予定。これにより、外部のロボットベンチャーやシステム構築(SI)企業が、より使いやすい操作体系などを自由に設計できるようになる。
すでに一部の提携企業に対しては開発環境を提供し、非純正の操作機器なども登場している。公開によりこうした協業の可能性が広がり、ユーザーの実情に合った機器やシステムが、生まれやすくなるかもしれない。
自動車の溶接や半導体ウエハーの搬送など、特定の用途で発展してきた産業用ロボット業界。しかし、近年需要拡大が著しいのは、一般産業用途など新たな領域だ。今やロボットメーカー各社は、こうした需要構造の変化と、I4・0など製造業革新の双方に対応しなければならない。このため、いかに外部と連携しオープンイノベーションを展開できるかが、今後さらに重要性を増しそうだ。
(文=石橋弘彰、藤崎竜介)
工場で活躍する産業用ロボットのメーカーは、ベンチャー企業など外部との連携を加速させている。
ドイツの産業施策「インダストリー4・0(I4・0)」など製造業革新の動きに対応するため、モノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)といった先端技術を取り込む目的が一つ。また、一般産業分野などの新たな工場自動化(FA)市場を開拓するため、ロボットを“より使いやすく”する狙いもある。16年は以前にも増してロボットメーカー絡みの協業案件が目立ちそうだ。
国内外の産業用ロボット大手が、“オープン戦略”に方針転換し始めている。例えば、欧州市場で高シェアを誇るドイツのクカ。15年5月に、オーストリアのTTテックと協業開始することを発表した。「(TTテックが得意とする)分散型クラウドの技術を応用することにより、ロボット同士が協調する次世代のシステムを生み出せる」とクカのハインリッヒ・ムンツ指導設計士は協業の狙いを説明する。
国内大手のファナックもこれに続いた。同年6月に東京大学発ベンチャーであるプリファード・ネットワークス(PFN、東京都文京区)との提携を発表。その後、PFNに出資することも決め、業界関係者らを驚かせた。ファナックが外部のベンチャー企業に出資するのは異例の出来事だった。
両社を突き動かしているのが、I4・0に代表される製造業革新の動きだ。自律的に生産する次世代工場「スマートファクトリー」の重要要素として期待されるロボットだが、まだ適用範囲は限られ、IoTやAIなどによる進化を望む声は多い。こうした要求に応えるには「自社の力だけでは困難」というロボットメーカー側の危機感が、外部との協業という形になって表れている。
また、「産業用ロボットはもっと使いやすくなるべきだ」という要求も根強い。動作の設定などはロボットに不慣れな新規ユーザーにとってハードルが高く、改善の余地が多分に残されている。
川崎重工業、ソフト開発環境を一部公開
こうした課題に対して、新たな動きをみせているのが川崎重工業だ。16年度中をめどに、自社製ロボット制御ソフトウエアの開発環境を一部公開する予定。これにより、外部のロボットベンチャーやシステム構築(SI)企業が、より使いやすい操作体系などを自由に設計できるようになる。
すでに一部の提携企業に対しては開発環境を提供し、非純正の操作機器なども登場している。公開によりこうした協業の可能性が広がり、ユーザーの実情に合った機器やシステムが、生まれやすくなるかもしれない。
自動車の溶接や半導体ウエハーの搬送など、特定の用途で発展してきた産業用ロボット業界。しかし、近年需要拡大が著しいのは、一般産業用途など新たな領域だ。今やロボットメーカー各社は、こうした需要構造の変化と、I4・0など製造業革新の双方に対応しなければならない。このため、いかに外部と連携しオープンイノベーションを展開できるかが、今後さらに重要性を増しそうだ。
(文=石橋弘彰、藤崎竜介)
日刊工業新聞2016年1月1日 機械・ロボット・航空機面