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エネルギー価格高騰で求む声、「原発再稼働」は必要か

エネルギー価格高騰で求む声、「原発再稼働」は必要か

関西電力の高浜原子力発電所

ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の高騰を受け、与野党や経済界から原子力発電所の再稼働を求める声が高まっている。16日深夜の宮城・福島地震では東京電力管内の複数の火力発電所が停止。エネルギーの安定供給には電源構成の多様化が不可欠なことが改めて浮き彫りになった。ただ、再稼働には厳格な安全審査が必要なほか、東電福島第一原発事故による国民の不信感はいまだ根強い。今夏に参院選を控えることもあり、足元で再稼働の議論が進むかは見通しづらいのが実情だ。(編集委員・板崎英士、同・川瀬治、孝志勇輔、大阪・大川藍)

経済界、危機感強める

エネルギー確保へ、経済界は危機感を強める。関西経済連合会の松本正義会長(住友電気工業会長)は「ロシアに対する経済制裁の影響はロシア国内にとどまらず、欧州や日本への影響も覚悟すべきだ」と述べ、エネルギーに関する政府への緊急提言を発表。経団連の十倉雅和会長(住友化学会長)も「既設の原発で安全性が担保され地元住民の理解が得られるものは速やかに稼働しないといけない」と強調する。

関経連は提言の中で、欧州が天然ガスの4割をロシアから輸入している現状を踏まえ、供給が不安定化した場合に液化天然ガス(LNG)の世界的な争奪戦が加速すると指摘した。価格転嫁が急速に進めば生活必需品全般が値上がりし、「1970年代のオイルショックのような事態も想起される」(古川実地球環境・エネルギー委員長=日立造船顧問)と警鐘を鳴らす。

エネルギー不足の回避に向け「経済性、出力安定性の面でも優れた原発の活用は有効な選択肢」(古川委員長)と評価し、速やかな再稼働を政府に要請。審査の迅速化へ原子力規制庁の審査員増員などを求めた。

LNG調達を依存するロシアの「サハリン2」については「手放せば再参入は不可能」(古川委員長)と指摘する。政府へ慎重な対応を求めると同時に、火力発電でのアンモニア混焼や小型原子炉の活用など「第6次エネルギー基本計画」の見直しを要望した。

欧州で広がる推進論

ウクライナ危機により、欧州で原発推進の議論が高まっている。欧米による経済制裁の副作用として、ロシアに大きく依存する欧州各国のエネルギー安定供給に大きな不安が出てきたからだ。その少し前、欧州委員会が、脱炭素化の中で持続可能な経済活動を分類する「EUタクソノミー」規則に、天然ガスと原発を加えたことも後押しとなった。

欧州各国ではエネルギーの“脱露”の動きが急速に進む。24日にパリで開かれた国際エネルギー機関(IEA)の閣僚理事会では「ロシアから石油とガスの輸入を減らすことで一致した」(ビロル事務局長)。原油の3割をロシアに依存するベルギーは、2025年までに稼働中の原発7基を全廃する方針を撤回、デクロー首相は18日、7基のうち新しい2基は10年運転を延長すると発表した。

天然ガス供給の5割をロシアに依存するドイツは完成間近だった独露間の新パイプライン「ノルドストリーム2」を停止し、国内初となるLNG輸入ターミナルの2年以内の建設を決めた。米政府は欧州連合(EU)に対しLNG供給を拡大することで合意した。

独シュルツ首相は22年末までに原発を全廃する考えだ。実際には原子力政策を推し進めるフランスから電力供給を受けている。そのドイツでもウクライナ危機を受け、急きょ稼働中の原発3基の延長を議論した。コストとリスクの不安から今回は否定したが、脱原発のトップランナーである同国でさえ、原発再開をタブー視できない状況にある。

フランスではマクロン大統領が21年11月に原発を拡大する方針を打ち出した。2月には50年までに最大14基の新設計画を発表。17年の就任時には35年までに原発14基を廃止し、電源構成に占める原子力の割合を75%から50%に引き下げる意向を示したが、エネルギーの安定供給と脱炭素の両立に向け原発利用に明確にカジを切った。

こうした動きについて小山堅日本エネルギー経済研究所専務理事は「エネルギー市場は世界で連携性を高めており対岸の火事ではない。わが国のエネルギー安全保障強化をどうすべきかが真剣に問われている」と指摘する。東日本大震災以降、すべての原発を停止した日本では、まだ10基の再稼働しか認められておらず運転中は5基にとどまる。

電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は「原発を最大限活用することがエネルギー安全保障の観点から不可欠。事業者と規制双方が世界最高水準の安全性を追求していければと考える」としている。

政府、明確な戦略描けず

経済産業省はエネルギー基本計画を受け、原子力分野の課題への対応策を議論している。安全性を高める次世代炉の研究開発や原子力の人材確保、核燃料サイクルの推進などテーマは多岐にわたる。一方で、福島第一原発の事故後、厳しい安全基準で再稼働に向けた動きは停滞。日本原子力産業協会の新井史朗理事長は経産省の有識者会合で、「原子力は脱炭素電源であり、最大限活用すべきだ」と指摘した。

同計画は再稼働の推進は示したが原発の建て替えや新増設は見送られた。経産省には人材や技術基盤が脆弱化することへの問題意識が根底にある。原子力産業ではプラントや機器の製造、保守で年1兆円規模の供給網が形成されているためだ。

だが、このままでは原子力から撤退する企業が増える可能性もある。有識者会合で「(原子力の方向性を示す)工程に建て替えすら書けないのは思考停止」といった意見も出た。今後、論点の一つとして供給網の強化策が議論される見通しだ。

政府が原発の明確な戦略を描けない一方、自民党内では議論が活発化しつつある。経済産業部会の石川昭政部会長は「原発は一つの資産で、どう生かすかというテーマに挑戦したい」と話す。党内の動きを契機に原発のあり方を議論する機運が高まる可能性もある。

16日の福島県沖地震による火力発電所の停止で、東電と東北電力管内の電力需給が逼迫(ひっぱく)し、電力の安定供給への懸念が高まった。原発の再稼働が進まず、電源構成が火力発電に偏っているが、世界的な脱炭素化などを背景に「(火力による)電力供給の余力がなくなってきている」(経産省幹部)という。多様な発電設備を組み合わせる観点からも原発は重要だ。


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