次世代通信が生み出す感動の卒業式体験
3月は卒業シーズン。「仰げば尊し」を涙して歌い、級友と最後の別れをし、第二ボタンの行方を気にした日を懐かしく思うことだろう。コロナ禍となった昨年は、そんな淡い思い出を作ることができなかった卒業生が多い。感染防止対策のため、「オンライン卒業式」で代行する学校も多かった。
オンライン旅行で修学旅行、声援のない体育祭…。コロナ禍では、行事が中止になったり過度な制約を設けたり、学校生活を心から楽しむ機会が著しく少ない。日々の授業でさえリモート化し、学校へ通うことなく友人とも会えない。子どもたちは「リモート」に対して、青春とはかけ離れたネガティブなイメージを抱いているのだろうか。
しかし、技術の進歩と工夫によってリモート行事は最高の思い出となる。
ネット高校として注目の、学校法人角川ドワンゴ学園「N高校」。同校は2021年3月に工夫に満ちたリアル・オンライン並行の卒業式を行った。テーマは「一体感」。ニューノーマルな卒業式を演出し、会場に集まった生徒は希望した約230人のみ。その他の全国のN高生は、「ニコニコ生放送」や「YouTube」「Twitterライブ」などの配信視聴やコメント投稿を通じて出席した。通信技術の進歩によって、リモートでも生徒が一体となる卒業式が可能になった。
卒業証書授与は、完全非接触の電子卒業証書で実施。ドローンが撮影する生徒視点の映像をリアルタイムで配信することで、リモート参加の卒業生も実際に授与された気分になる。リモート応援システムを取り入れることで、拍手や歓声がリアル会場に響き渡った。さらに会場に拡張現実(AR)映像の桜を投影し、満開の桜が卒業生を送り出した。
N高校は技術を駆使し卒業生たちが決して忘れることのない最高の思い出を、作り上げることに成功した。
ただN高校の例は極めて珍しい。学校側はオンラインという弊害に苦労しているのが現状だ。 文部科学省の「GIGAスクール構想」では、19年から希望する全ての学校に対して校内の高速大容量ネットワーク環境の整備を始めているがコロナ禍で課題も浮上。いくら学校側を整備しても、子どもたちの自宅のネット環境も整える必要がある。緊急事態宣言下などでは、子どものオンライン授業と親のテレワークが重なり、ネット環境が不安定になりやすいという問題がある。
そこで注目されている技術が「ローカル5G(第五世代通信)」だ。
ローカル5Gとは、超高速・超低遅延・多数同時接続を特長。企業や自治体単位の狭域エリアで構築が可能な通信技術だ。三菱地所は21年8月、東京・丸の内エリアにローカル5G環境を構築し、未来のまちづくりに向けた実証実験を開始した。オフィス利用だけでなく、来街者向けのサービスや災害時への活用などを模索する。教育現場では、東京都立大学が積極的に取り組んでいる。南大沢キャンパスと日野キャンパスにローカル5G基地局を設置。この環境を活用した研究や実証実験の成果を社会に還元することを狙っている。
技術が進歩すれば、自宅単位で5G環境が構築される。子どもたちのネット環境によるストレスが緩和され、リアルだけでなくリモートでも「青春」を感じる日が来るかもしれない。