「確実にGAFAに勝てる」ニッポン最先端介護の現在地

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介護現場でのデータ活用が進んでいる(イメージ)

介護事業者がIoT(モノのインターネット)や介護データの活用に本格的に乗り出している。施設内での介護・看護記録やセンサー機器などを通じてデータを収集し、分析することで介護の見える化や意思決定の支援につなげている。こうした動きの背景にあるのが深刻な人手不足だ。2月、政府も介護人材の需給ギャップの拡大を見据え、介護施設の人員配置基準を緩和する検討に入った。ただ、基準緩和には現場から不安の声もあり、制度設計は一筋縄ではいかない状況だ。(石川雅基)

事業者が製品開発

「日本は介護分野では、確実にGAFA(米IT大手4社の総称)に勝てる」。データ工学を専門とする東京大学の喜連川優特別教授は、国内介護業界のデータ活用についてこう強調。「高齢者の物理空間のデータをこれだけ多く収集できる国は他にはない」とも話す。

一方で介護業界は人手不足が深刻化している。厚生労働省は2021年7月、40年度に介護職員が約280万人必要となり、約69万人が不足するという推計を発表。需給ギャップが拡大するとみる。そこで大手介護事業者を中心に、センサーやロボットなどを導入して効率的に介護サービスを提供する動きが広がっている。特に、さまざまな現場に対応可能な汎用性の高い製品を活用するために、介護事業者自らが製品開発に乗り出すケースが増えている。

複数の介護施設を運営する善光会(東京都大田区)は、100種類を超える介護機器を導入する。これまで、デバイスごとにアプリケーション(応用ソフト)のインターフェースがバラバラとなっていたため、複数の機器から収集したデータを一元的に管理できるようアプリのインターフェースを統合。機器を効率的かつ効果的に使えるクラウドプラットフォーム「スコップ」を開発した。介護記録機能も搭載し、情報共有にかかっていた時間も大幅に削減した。宮本隆史理事は「オープンプラットフォームなので、今後もさまざまな製品とつなげていきたい」と力を込める。

AIが“見守り”

現在、東京大学の松尾豊研究室と人工知能(AI)技術を活用した行動認識モデルによる見守りシステムの開発も進めている。監視カメラの映像から転倒する可能性がある人をリアルタイムに認識。即時にスコップのアプリに通知できるようにし、見守りの質と効率を高める狙いだ。

SOMPOケアは睡眠状態を把握できる眠りスキャンで、夜間の見回りを減らした

介護業界大手のSOMPOケア(東京都品川区)は、入居者のベッドに付けたセンサーで体動を検出して睡眠状態を測定する「眠りスキャン」を導入する。入居者が寝ているかが分かるので職員による夜間の見回りを減らせ「入居者の安眠にもつながっている」(遠藤健社長)という。

集めた介護データを活用したアプリも開発中だ。睡眠時間や心身機能、服薬情報など、さまざまなシステムに散在するデータを分析してダッシュボードで見える化することや、優秀な介護職員のノウハウを形式知化することを目指す。例えば、開発を進める援助時間と要介護状態区分の基準援助時間との比較ができるアプリにより、適切なケアプランや区分へ見直すことができる。既に、運営する介護施設に導入し、有用性の確認を進めている。

眠りスキャンで全入居者の眠りの状態を確認できる

ベネッセスタイルケア(東京都品川区)は、認知症ケアなどの高い専門性を持つ職員のノウハウを組み込んだAIシステムを開発し、介護施設に試験導入した。AIが入居者の日々の記録データから「認知症の行動・心理症状(BPSD)の要因分析」や「いつもと違う予兆検知」を行い、経験の浅い職員でも高い専門性を持つ職員に近い判断ができるよう支援する。滝山真也社長は「人とAIの力を組み合わせ、介護サービスの質を高めたい」と力を込める。

100施設で半年検証

今後、拡大が予想される介護人材の需給ギャップに対応するため政府も動いている。2月、入居者3人に対して職員1人以上の配置を求めている介護施設の人員配置基準を緩和する検討を開始。まずは4月から介護施設での検証事業を始める。介護ロボットやICT(情報通信技術)などの活用で、介護職員の生産性や介護の質、サービスの安全性がどう変化するのかエビデンス(科学的証明)を集める。補助的な業務を担う介護助手も活用する方針。「100以上の施設で、6カ月間検証する」(厚労省担当者)ことを想定する。

これまで人員配置基準を「4対1」へ緩和することを要望してきたSOMPOケアは、既に26施設で「4対1」を仮想した運営を実施する。「実証事業にも参加し、有効なエビデンスを示したい」(同社の岩本隆博最高データ・業務革新責任者)という。

ただ、人員配置基準の緩和は業界内でも意見の隔たりが大きい。ベネッセスタイルケアの滝山社長は「まずは介護職員一人ひとりの熟練度をどう上げるかが求められる。一足飛びに生産性の向上を求めるのではなく、介護の質向上を目指す中で生産性を高めるべきだ」と指摘する。また、介護福祉士で構成する日本介護福祉士会は「現場の業務負担が増えることにつながるのでは」と不安を訴える。

「4対1」独り歩きも

こうした意見に対し、厚労省老健局高齢者支援課の担当者は「一律で基準を緩和するのではなく、条件付きが自然」とした上で「『4対1の介護』が独り歩きしているが、厚労省として決定していることはない。まずは検証を通じてエビデンスを集めたい」と緩和に関しては白紙状態であることを強調する。

4月からの実証事業で有効なエビデンスと他の介護事業者でも実現可能な汎用性のある取り組みが示せるか、注目される。

日刊工業新聞2022年3月25日

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