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社員10人からクックパッドはこうやってグロースした(中)

文=山口豪志(デフタキャピタル アクセラレーター)第2創業期にジョインした新卒1号営業マンが語る3つのポイント
社員10人からクックパッドはこうやってグロースした(中)

クックパッドのウェブサイトより

**圧倒的な成功事例(ミツカン、パナソニック)をチームで企画する、生み出す、広報する!
 みなさんは、ミツカンと聞いて何を連想されますか?
 先日、餃子をワイワイと食べているときに、その話題を10人ほどの20代の方に問いかけてみて、反応に驚きました。「味ポン」だというのです。さすがは、食品業界きってのマーケティング会社。すっかり今の若者への認知を衣替えしている。凄い。

 さて、今回のテーマは、まさにコレです。

 “クックパッドの営業マン”と聞くと、「凄く料理が上手で食にも詳しい!」と思われるでしょう。しかし私はそうではありませんでした。作るよりも食べることが専門の人間です。

 にもかかわらず、基礎調味料の屋台骨を支える食酢のトップメーカーであり、様々な調味料やふりかけ、鍋つゆなど幅広く事業展開するミツカンの担当になったのは何も偶然からではありません。

 クックパッドが着実に成長を遂げて行く過程で、料理のスペシャリスト、企画を充実させるディレクター(料理に詳しい編集部=小竹編集長、川西氏、松浦氏)が組織として強化されました。彼女、彼らたちと私のような営業が“チーム”で企画を考えて、プロジェクトを進めていったのです。

 そして、クックパッドの大きな成功事例で、ミツカンのお酢プロジェクト(志賀氏、白取氏とのプロジェクト)を抜きには語れません。

 ミツカンとの取引関係はとても古く、創業者の佐野陽光氏が会社を立ち上げ、しばらくしてからの付き合いだそうです。私はそれを上長から引き継ぐ形で担当を受け持ちました。

 ちょうど、年間1億円規模の仕事を受注できるかもしれないという時期で、社内からは大きな期待がかかっていました。当時、年商数億円規模だったので、会社へのインパクトからも当然です。

 基礎調味料の「さしすせそ(砂糖、塩、酢、醤油、味噌)」の国内需要は、人口減少により総じて右肩下がり。その中で、酢は健闘していて、ほぼ横ばいを続けていました。ミツカン側のクックパッドへの期待、希望は、レシピを通じた「食酢」の需要喚起と利用頻度の向上による使用量の増加でした。

 まず年間にわたって、春夏秋冬の企画を時期ごとに展開していきました。エポックになった事例は、その流れの中で生まれたんです。

 『お酢嫌い克服キャンペーン』とそれに続く『スゴだれ企画』
 実はお酢ですが、男性や子供は苦手な傾向があり、それをダイレクトに訴求しつつ、お母さんの工夫いっぱいのお酢レシピを集めました。
<参考> http://www.dfonline.jp/articles/-/5151

 そうしたところ、ドレッシングやタレのレシピがとても多かったんです。また、実際にそれを再現する人気レシピになる傾向が見えてきたので、次の『スゴだれ企画』へとつながっていったのです。この“スゴだれ”というネーミングは、複数の意味を持たせた企画でもありました。
<参考>http://president.jp/articles/-/8240

 それまでのどのキャンペーンよりも、ユーザーの反響が大きく、また、クックパッド以外のメディアや店頭でも反響があり、実際に売り上げにも貢献できました。

 この企画と前後して、ナショナル(現パナソニック)の電気圧力鍋でも、従来の20倍の売り上げ実績につながる事例も生まれ、クックパッドが基礎調理料や調理家電と親和性が高いことが徐々に証明されていったのです。
<参考>http://www.dfonline.jp/articles/-/5149?page=2

 この事例作りで重要なポイントが、広報による世の中への情報発信です。強烈過ぎる事例は、得てして社内やクライアントのみで共有されがちです。しかし、まさにその事例や事実を求めている人たちが世の中に多くいるのです。ビジネスシーンでは常に新しいプロモーション、販促手法に飢えていることに気づきました。

 広報担当者(櫻井氏)とともに、この事例を戦略的にメディアへの取り上げてもらうよう“攻めの広報活動”を行ったのです。その結果、女性向けのメディア取材が多かったクックパッドがビジネス系メディアからの問い合わせが増えるようになりました。営業と広報が情報を密に共有し、事例から事例を生むサイクルを蓄え、放出していったのです。

 先にも書きましたが、私は料理が得意なわけでもありません。でも上長の役員から「山口の良いところは、スポンジのような吸収力だ」と言われたことが今も印象に残っています。そのころのクックパッドは人も少なく、接着剤のような営業が必要だったのです。

 まず走ってみてそれが正しいかを考える。とてもシンプルな営業手法ですが、本気でやる人は少ない。企画ディレクターや広報の人たちから吸収したことは、のちに自分の仕事に大きく影響を与えました。

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
創業者の佐野さんはこれからのクックパッドをどのようにしたいと考えているのか。あるイベントでの発言。 「会社が永続するべきか、すごく難しいこと。ほんとは会社はミッションがあって、ミッションを達成したら解散するべき。僕はここで悩んでいるんです。僕はクックパッドを始めて、会社という形態にしたのも、ゴールはほんとに、すべての人が日常で料理を楽しんでいる世界にする事なんです。当たり前のように料理が生活の中にあって、これって結局、作る人を増やすことにつながっていて、食に対する主体性をみんなで持つことなんです。だから食うに困らない人ばかりの社会になると思っていて、すごくいろんなイメージができる。料理をするようになるだけで。そのミッションを徹底的にやる」

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