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社員10人からクックパッドはこうやってグロースした(上)

文=山口豪志(デフタキャピタル アクセラレーター)第2創業期にジョインした新卒1号営業マンが語る3つのポイント
社員10人からクックパッドはこうやってグロースした(上)

クックパッドのウェブサイトより

 はじめまして、山口豪志と申します。
 現在は、ベンチャ―企業の成長をサポートする仕事(ベンチャ―企業投資や事業コンサルティング)をしております。2006年よりクックパッドに参加させて頂きました。
 
 当時のクックパッドは、役員と社員を合わせても、10人程度という所帯で、参宮橋駅(東京・小田急線)のそばの小さなオフィスにありました。その頃の売り上げは「多少ある」という程度の赤字状態。まさに‘吹けば飛ぶ’という状況でした。そこからクックパッドの初期メンバーはどのように会社をグロースさせてきたのか、というテーマで自分の経験談を3回にわたってお話したいと思います。

 大きく成長したポイントを3つ。

(1)BtoBのマーケティング事業戦略(広告代理店へのネットワーク構築、実績の積み上げと横展開)


 クックパッドは、当時、主要な売り上げは、BtoB(企業向け)広告や企業タイアップに頼っていました。商材は大別して2種類。純広告(サイト上に他社の広告素材を掲載する)と、タイアップ広告(レシピコンテストをはじめ、食品・飲料メーカーを中心としたマーケティング企画)です。

 私の役割は、広告事業部での営業担当。広告事業部と言っても、上長の役員(森下氏)と2名のみで、経理等を兼務されていた女性(武田さん)がサポートしてくださるという体制でした。最初に任された業務は、それまではほぼ売れていなかった純広告を販売することでした。

 上長に言われたことはただ一言、『1円でも多く売れ!』ということ。まずは、広告業界の産業構造を理解するべく、関係者や社内の方々に教えて頂いて、自社を取り巻くビジネスモデルについて理解をしました。

 クックパッドは、今でこそ上場企業でもあり、また多くの方に認知される企業、媒体になっていますが、当時は、料理する方に多少認知されている程度でした。

 売り文句は、【毎日お料理する主婦が100万人集う料理レシピサイト】。この“女性が月間100万人集まる”サイトというポイントのみを売りとして広告販売をしていくことにしました。

 広告業界に限った話ではなく、おそらく日本の大手企業はじめ、多くの会社でセールスをする上で最も障壁になるのが、【事例の有無】ではないでしょうか。

 クックパッドでも同様にまずは大手企業の広告出稿実績をつくるため、まずは大手企業の広告出稿を任されている広告代理店に売り込みに行ったのです。

 具体的な話をすると、トイレタリー・消費材・日用品を販売するA社へ行って、初回割引をして出稿事例として紹介させてもらう。そして、女性・主婦向けの商材で広告出稿の実績が出来る。次はその事例を持って同業他社のB社、C社へ提案し、別の広告代理店にお願いする。その結果、B社の出稿が決まり、ますますC社への圧力が高まって、最終的には、A、B、Cの3社ともに出稿を頂けるようになったのです。
 
 各業界にて、それぞれ並列に広告の出稿実績ができることで、自然と広告枠の空きが少なくなって行きます。その情報を逐一、広告代理店各社へ連絡すると、『あれ?クックパッドって純広告枠、売れるのか!』という反応になってきます。

 その何となく“売れている広告出稿媒体”という流れ(雰囲気)を絶やさずに、さらに広告の出稿実績を積み重ねて行く。すると3カ月くらいで、【96%が女性というサイト特性を活かして女性向け商材のプロモーションを行えるメディア=クックパッド】という狙っていたブランディングが出来上がります。

 広告販促においても、広告枠の販売が苦戦する8月の閑散期に【盆フェス】と銘打って拡販をしたり、広告業界に合わせた商材づくりもしました。【CPC100円テキスト】という純広告枠商材は、クリック誘導を1件100円という値付けで約束するというものでした。それまでは販売に苦戦する13文字のテキスト広告枠でしたが、100円テキストは満稿にするほどに売ることができました。

 もちろん、このようにまとめて書くと大変スムーズに売り上げが伸びたように感じられるでしょうが、実際は、昼夜問わずにクライアント先へ出向き、興味を引くために何度も企画書をつくり続けて、決まるまで続けたというのが実情でした。また、社員数も少なくネットワークもほぼ無いので、社会人勉強会へは数多く参加し、社名とサービス名をより多くの方へ知って頂く活動もしました。

 2006年当時、インターネット広告市場は約2500億円と現在の4分の1の規模。食品、飲料メーカーの広告出稿はほぼありませんでした。今のように多くの食品、飲料系の企業がクックパッドへ出稿するという状況と隔世の感があります。

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社員10人からクックパッドはこうやってグロースした(中)

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
ニュースイッチファシリテーターの山口さんの寄稿。知られざるクックパッド初期の貴重な話です。クックパッドは利益が出るまで7年かかっている。創業者の佐野さんが「今、15年ぐらい経って、ある程度利益が出始めて、お金を使って事業を進めることができるようになってから、またハードルがすごく上がる。要するに環境を作ったりする。我が社の置かれている状況は、ものすごい恵まれた環境。もっと楽しみたいために、新しい事業をやったり。だけど、なかなか生まれない。お金が無い時の方が頭を使う」と話していたのがとても印象的。

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