ニュースイッチ

AD

東京都・設備投資の助成金、中小デジタル変革の支援拡充

都内中小企業の「稼ぐ東京」実現を力強く後押ししたい―新年度募集に向けた想いを、東京都中小企業振興公社・事務局に聞く

東京都中小企業振興公社が実施する中小企業の設備投資支援事業が2022年度、前年度の2倍近くの予算となる100億円を確保した。4月にはこれを受けた「第3回躍進的な事業推進のための設備投資支援事業」の募集を始める。2021年度からスタートした同事業は都が掲げる「稼ぐ東京」の実現を目的とした助成金。予算大幅拡充となった背景には、中小企業のデジタル変革(DX)を強力に後押ししていきたいという都の方針がある。その背景や狙いについて、同公社の寺井晃設備支援課長に聞いた。

前年度の約2倍、100億円を確保、DX導入を推進

―東京都の予算案によると、前年比で2倍近くの大幅増になりました。
 「都内の中小企業ではDXがなかなか進んでいないのが実情だ。その推進を強烈に後押しし、最終的に個社に『稼ぐ力』を伸ばしてもらう狙い。21年度から開始した本助成事業は、従来対応していなかったソフト単体の導入費用も助成対象とするなど、DX推進に向けて制度見直しも行ってきた。もちろん単に新しい設備やソフトを入れるだけではだめだ。生産性向上や新しい製品・サービスの構築、既存ビジネスの変革を見据えたしっかりした事業計画を示してもらい、審査・助成することになる」

―21年度における同事業の傾向は。
 「21年度では2回の公募を実施し、前年度の1・4倍にのぼる多くの企業から申請いただいた。本助成事業の利用者層は金属加工業や印刷業など製造業が大半を占める。また、近年は導入設備が大がかりになってきたこともあり、1社当たりの設備投資額が増加の傾向にある。予算が大幅に増えた22年度では、さらに多くの企業に申請いただき、一社でも多く採択できるよう期待したい。必ずしも大型機械を導入する必要はなく、製造業でなくてもよい」

―ソフト単体でも助成の対象になるというのはDX推進にとって後押しになります。
 「従来は設備に付属するソフトに限定していた。だが、流れは変わってきている。解析用ソフトを導入して初めて受注できる仕事もあるだろう。そう考えるとソフトも立派な設備であり、支援企業に広がりを出せるはず。また、DX推進区分では、直接、生産や役務の提供に使用しないが生産性向上に寄与するソフトも対象にすることができる」

―製造設備もそうですが、DXは単にソフトを導入するだけでは難しいと聞きます。
 「ご指摘のとおりで、単にソフトや、IoT機能搭載の設備を導入するから『DX推進』である、という計画だけでは厳しい。ソフトや設備導入はあくまでも手段であり、本来の目的である『DX推進』に向けた経営戦略や全体ビジョンをもっており、それを申請書に記載できているか、面接で説明できるか、が重要である」

―「申請書」のハードルが高いと感じる企業も多いのでは。
 「書類作りが大変だという声はなくならないが、申請書を作成しながら事業に気付きを得てほしい。申請書は、事業計画さえしっかり策定いただけていれば書ける内容になっている。こうしたことに慣れない企業もあるだろうが、採択された事業者からは『書くことで自社の課題や方向性を整理でき、結果的に大いに役立った』という声もいただいている。考えている事業計画がきちんと申請書に反映しているか、自分たちにとっては当たり前すぎて省略している部分はないか、自社の業務内容を知らない人が理解できるだろうか、という観点で第三者に読んでもらってもいいと思う」

―あらためて審査のポイントを教えてください。
 「審査項目は『目的との適合性』『優秀性』『実現性』『成長・発展性』『計画の妥当性』など五つの視点で構成される。申請企業は、自社の中長期的な成長のためにこの投資がどうしても必要である、という主張を、数字や具体的な根拠で裏付けながら説明してほしい。これは申請書類の書き方や面接審査の両方に共通する大切なポイントだ」

(公財)東京都中小企業振興公社寺井 晃 設備支援課長

コロナ禍でデジタルを活用した生産性向上目指す企業が増えている実感

―これまでにどれほどの企業を支援してきましたか。
 「前身事業も含めると採択実績は1000件強にのぼる。21年度では前年度を大きく上回る564件の応募があった。DX推進の前身となる「IoT・ロボット活用」区分に着目すると、申請件数は20年度後半から急増している。コロナ禍における急激な社会状況の変化も影響してか、デジタル技術を活用し、生産性向上を目指す企業が実感として増えてきており、この傾向は今後も続くと考えている。当事業で一定の成果を上げた企業が更なる成果を目指しての申請もあると思う。これもおおむね狙いどおりといえる」

―今後の展開は。
 「4月と10月を募集開始時期とする計2回の応募を予定しており、スケジュールとし ては21年度とほぼ同じになる。23年度も同程度で調整予定である。今すぐでなくとも、設備投資を検討しているのであれば活用してほしい」

―新規企業を増やすための工夫は。
 「小さな設備投資にも手が届くよう、今回は従来100万円以上としていた1基当たりの導入設備費の下限を50万円に下げた。家族経営でも個人事業主でも使いやすいはず。設備投資の規模の大小は問わず、公平に審査している。実際に過去に採択されたさまざまな企業の成果事例を公社ホームページで公開しているので、各企業の代表の声などを参考にしつつ、本助成事業活用を前向きに検討してもらいたい」

設備投資助成金・成果事例

上限1億円で知られる“東京都の設備投資助成”は2014年度にスタート、22年度は大幅に予算拡張のうえ公募を予定。公社では過去に採択された企業をホームページ等でも公開している。彼らがなぜ助成金申請にチャレンジしたのか。申請書や面接審査にどう向き合い、採択を勝ち取ったのか。肝心の設備導入後の進捗はどうだったのか。その成果事例の一部を紹介する。(https://www.tokyo-kosha.or.jp/topics/2003/0016.html

二和印刷株式会社

世界3大デザイン賞のひとつ「iFデザインアワード」で受賞した化粧品パッケージ。二次加工による刺繍のような柔らかな感触と凹凸が特徴
 高級パッケージ印刷の二和印刷(東京都中央区、堀野朝広社長)は、最新の紫外線(UV)印刷機を導入した。表面の凹凸を付ける2次元加工や色再現などの各工程で行う「見当合わせ」作業の精度が大幅に向上した。若手でも高度な作業ができ生産性が向上した。後進育成も進めやすくなった。

80年来の取引がある大手化粧品メーカーからの依頼が申請のきっかけだった。もとはインクを混ぜ独自の色を出す技術「調色」に強みを持っていた。だが4色カラー印刷が主流になり、既存設備だけでは安定的な大量生産が難しかった。

当初は必要書類が多く戸惑った。それでも自社がどのような志を持ち社会貢献していくのか、社の歴史を元に必要なことを考え抜いた。堀野社長は「自然と結び目がほどけるように、何をどう書くかが見えてきて、そこからは早かった」と振り返る。この時に得た思いは社内で共有し、会社はさらに団結できたという。

有限会社トーヨー

プレスでの抜き加工。従来機と比べ加工の精度とスピードが大幅に向上した
 金属プレス加工のトーヨー(東京都大田区、佐川一彦社長)は、高精度の汎用プレス機を導入した。従来設備は最大圧力80トンだったが同110トンとなり、より厚い金属板を加工できるようにした。近年の複合化ニーズにも対応することで売上高は導入前比で10~15%増えた。

ある顧客の大口案件に対応しようと、初の助成金に思い切って申請した。ところが交付決定直後、計画が取り消しになった。佐川社長は「頭が真っ白になった」という。その後「トーヨーが大型機械を入れた」と聞いた別の顧客が新たに発注し、事なきを得た。1社に依存せず従来の仕事も大事にし、人と設備を増やすとしていた経営方針が奏功した。

導入後は高付加価値化が進み製品単価が上がった。拡大した受注に対応するため従業員を1人増やした。技術力はもちろんだが、金属プレス加工は「機械ありき」(佐川社長)の世界でもある。設備のさらなる活用で今後も新たな顧客を増やしていく構えだ。

京王電化工業株式会社

亜鉛鍍金自動セパレートタイプ 1基
メッキ加工・技術開発の京王電化工業(東京都調布市、姫野正樹社長)は、オーダーメードの大型自動亜鉛(Zn)メッキライン製造を導入した。メッキ層を従来比60センチメートル深い1・6メートルにした。地面と水平方向の拡大が難しい都市に立地しながら、生産量と売上高を導入前比1・4倍にした。1基2人だった工程が1人でよくなり生産性が向上した。

電子部品や自動車などさまざまな部品を手がけるが、コストや生産能力の面で限界が見えていた。だがこうした設備導入は設計や打ち合わせなどが手間で先延ばしにしてしまいがちだ。しかし、明確な期限がある助成金申請について姫野社長は「背中を押してくれる力がある」と語る。採択後も期限を意識し、いつ、どのような設備を導入するか。その積み重ねが変革につながったという。

実現した垂直方向の拡大は今後30年の活用を見込む資産になった。短納期対応や高度な要求の市場変化にしっかり対応していく。

株式会社三功工業所

製造しているダンパーは、サイズや仕様も掛け合わせると100万種類に及ぶ。カスタマイズして提供することも多い
防災用円形ダンパーの三功工業所(東京都大田区、三ツ橋一弘社長)は、円筒にリブ(環状のへこみ)加工ができるダンパー成形加工機を導入した。ビス留め作業が不要になり1人1工程で作業していたのが、同3工程で早くこなせるようになった。一部部品が不要になるため、5%の重量減と年間500万円のコスト減にもつなげた。

ビスはダンパーの大きさにより4-8カ所に取り付ける。日間生産量が600個にもなると「従業員が腱鞘炎になってしまう」(三ツ橋社長)。そこで考案した改良ダンパーを作るためには専用設備が必要だった。導入時は多能工化の取り組みもあり、現場の従業員らが自ら効率を追求。工場内の機械の配置や動線を見直した。

円形ダンパーの改良で性能が4割ほど高まった。火災の煙の拡散量を減らすと、避難時間を増やせる。さらなる高品質化のため、今後は人工知能(AI)による検査態勢の整備などを進める方針だ。

編集部のおすすめ