元金融マンが「未来からの前借りをやめよう」というワケ
新しい農業のカタチを追い続ける小野邦彦(坂ノ途中代表)が今、考えていること。
技術革新に伴う“6次産業化”が叫ばれて久しい農業。日々進化を遂げている。そんななか、「現代農業は省力化や低コスト化が進む一方、環境負荷は大きい」と指摘するのが、坂ノ途中代表の小野邦彦だ。同社は自然との共生をテーマとした農業ビジネスを展開するベンチャー企業。環境負荷の少ない農家が栽培した野菜の代行販売などを主力事業とする。生産性と環境負荷低減を両立した21世紀型農業のあり方を世に問う。
【資源の循環】
「未来からの前借りをやめよう」―。小野がことあるごとに口にする言葉だ。「収奪的な農業は将来に負担を押しつけることで成り立つ」と持論を展開。地球に優しい農業の確立にまい進している。
25歳の若さで起業した小野。農業ビジネスに携わるきっかけとなったのが、学生時代に世界20カ国ほどを旅したバックパッカーだ。旅で目の当たりにしたのが「自然との折り合いをつける生き方」。中でもチベットでの滞在が後の人生を決定づけることとなった。
標高4000メートルを超えるチベットは資源が乏しく、現地の人は数少ない手持ちの手段を組み合わせて生活する。物質的には乏しいが、そこにはモノを大切にするといった資源の循環が存在した。小野は「これなら環境を破壊せずに、ずっと続けていける」とし、人と環境を結びつけるのが農業のあるべき姿と結論づけた。
【栽培の最適化】
小野は環境負荷の小さな農業を「化学肥料に依存せず、その土地の気候に合った作物を栽培すること」と定義する。ただ、こうした農法はどうしても少量・不安定になりがち。「大抵は農業に理想を抱いた新規就農者がこれを目指す」と話す。農業人口を増やすには新規参入を活発化させることが不可欠だが、「少量不安定が一番の課題」と分析する。
現在、60人の新規就農者と提携。一人ひとりの生産規模は小さく少量不安定だが、同社が栽培計画の全体最適を図ることで、グループ全体で安定供給を実現した。同社が農家から野菜を買い上げ、レストランや小売店に販売する仕組みだ。
「環境に優しく手間暇かけた野菜は、高品質で味も良い」と小野は胸を張る。評判はすぐに広がり、個人向けのインターネット販売や京都市内での販売店舗に参入。販路は個人宅への配達が600件、飲食店への販売が100件。八百屋や小売り、スーパーへの卸しが30件を数えるまでになった。
とはいえ、ビジネスが軌道に乗る3年目までは「月次の売上高は20万円程度だった」と振り返る。高品質な野菜をアピールしてもまったく売れない日々が続いた。ではビジネスを軌道に乗せられた要因とは何か―。小野は「未来からの前借りをやめようと、ひたすら取引先に話をした」と振り返る。すると取引先の多くが共感し「次第に応援してくれるようになった」と笑顔をみせる。
【就農者育成】
現在力を入れるのが、新規就農者の育成だ。昨年から自社農園を整備し、新規就農者に対する研修プログラム「就農準備トライアスロン」を行っている。スコップを入れる力や角度から環境に優しい農法の学習まで、受講者は1週間缶詰で基本動作を学ぶ。「同社をステップに独立してもらえれば」と小野は力を込める。
小野の熱意はとどまるところを知らず、ついには海を越えた。まずはウガンダで栽培されたゴマやシアバターの現地販売に乗り出した。将来的には「日本の提携農家の何%かは海外に出て、日本の栽培技術を広めてほしい」。環境と人間を結ぶ小野の挑戦はまだ始まったばかりだ。(敬称略)
小野邦彦(おの・くにひこ)
1983年奈良県生まれ。京都大学在学中に世界中を旅することで、環境保全に関心を抱くようになる、同分野での起業を志す。大学卒業後、社会経験を積むために外資系金融機関で2年勤務。2009年独立。現在、農薬や化学肥料に頼らずに育てた野菜の販売を通じて、環境負担の少ない農業の普及を目指す。2012年には世界経済フォーラムグローバルシェーパーズに選出された。
今年3月30日に、本拠の京都に続き東京に「坂ノ途中 soil ヨヨギ garage」(渋谷区・代々木)をオープンさせた。種類豊富な野菜をはじめ、丁寧につくられた生活雑貨を取りそろえた店舗。キーワードは「やさい⇔暮らし」。
【資源の循環】
「未来からの前借りをやめよう」―。小野がことあるごとに口にする言葉だ。「収奪的な農業は将来に負担を押しつけることで成り立つ」と持論を展開。地球に優しい農業の確立にまい進している。
25歳の若さで起業した小野。農業ビジネスに携わるきっかけとなったのが、学生時代に世界20カ国ほどを旅したバックパッカーだ。旅で目の当たりにしたのが「自然との折り合いをつける生き方」。中でもチベットでの滞在が後の人生を決定づけることとなった。
標高4000メートルを超えるチベットは資源が乏しく、現地の人は数少ない手持ちの手段を組み合わせて生活する。物質的には乏しいが、そこにはモノを大切にするといった資源の循環が存在した。小野は「これなら環境を破壊せずに、ずっと続けていける」とし、人と環境を結びつけるのが農業のあるべき姿と結論づけた。
【栽培の最適化】
小野は環境負荷の小さな農業を「化学肥料に依存せず、その土地の気候に合った作物を栽培すること」と定義する。ただ、こうした農法はどうしても少量・不安定になりがち。「大抵は農業に理想を抱いた新規就農者がこれを目指す」と話す。農業人口を増やすには新規参入を活発化させることが不可欠だが、「少量不安定が一番の課題」と分析する。
現在、60人の新規就農者と提携。一人ひとりの生産規模は小さく少量不安定だが、同社が栽培計画の全体最適を図ることで、グループ全体で安定供給を実現した。同社が農家から野菜を買い上げ、レストランや小売店に販売する仕組みだ。
「環境に優しく手間暇かけた野菜は、高品質で味も良い」と小野は胸を張る。評判はすぐに広がり、個人向けのインターネット販売や京都市内での販売店舗に参入。販路は個人宅への配達が600件、飲食店への販売が100件。八百屋や小売り、スーパーへの卸しが30件を数えるまでになった。
とはいえ、ビジネスが軌道に乗る3年目までは「月次の売上高は20万円程度だった」と振り返る。高品質な野菜をアピールしてもまったく売れない日々が続いた。ではビジネスを軌道に乗せられた要因とは何か―。小野は「未来からの前借りをやめようと、ひたすら取引先に話をした」と振り返る。すると取引先の多くが共感し「次第に応援してくれるようになった」と笑顔をみせる。
【就農者育成】
現在力を入れるのが、新規就農者の育成だ。昨年から自社農園を整備し、新規就農者に対する研修プログラム「就農準備トライアスロン」を行っている。スコップを入れる力や角度から環境に優しい農法の学習まで、受講者は1週間缶詰で基本動作を学ぶ。「同社をステップに独立してもらえれば」と小野は力を込める。
小野の熱意はとどまるところを知らず、ついには海を越えた。まずはウガンダで栽培されたゴマやシアバターの現地販売に乗り出した。将来的には「日本の提携農家の何%かは海外に出て、日本の栽培技術を広めてほしい」。環境と人間を結ぶ小野の挑戦はまだ始まったばかりだ。(敬称略)
小野邦彦(おの・くにひこ)
1983年奈良県生まれ。京都大学在学中に世界中を旅することで、環境保全に関心を抱くようになる、同分野での起業を志す。大学卒業後、社会経験を積むために外資系金融機関で2年勤務。2009年独立。現在、農薬や化学肥料に頼らずに育てた野菜の販売を通じて、環境負担の少ない農業の普及を目指す。2012年には世界経済フォーラムグローバルシェーパーズに選出された。
今年3月30日に、本拠の京都に続き東京に「坂ノ途中 soil ヨヨギ garage」(渋谷区・代々木)をオープンさせた。種類豊富な野菜をはじめ、丁寧につくられた生活雑貨を取りそろえた店舗。キーワードは「やさい⇔暮らし」。
日刊工業新聞2014年12月08日 モノづくり面に一部加筆