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豊かな自然に恵まれた台地に建つ色彩化学メーカーの「象徴」

ミュージアム探訪・DIC川村記念美術館
豊かな自然に恵まれた台地に建つ色彩化学メーカーの「象徴」

建築は川村勝巳の盟友、海老原一郎が設計

DIC川村記念美術館は豊かな自然に恵まれた北総台地に建つ。約3万坪の広々とした庭園にはモネの作品を思わせるスイレンの咲く池があり、周囲の散策路には桜やツツジなど四季折々に多様な花が咲く。同美術館を運営するDICのブランドスローガンは「Color&Comfort(カラー&コンフォート)」(彩りと快適)。美術館は象徴的な存在だ。

モーリス・ルイス《ギメル》(1958年 DIC川村記念美術館蔵)3月19日に開幕する「カラーフィールド 色の海を泳ぐ」展より

大日本インキ化学工業(現DIC)の2代目社長・川村勝巳は経営の傍ら、ひとり絵と語らう時間を大切にしたという。やがて、その喜びを人々と分かち合いたいと考え美術館の設立を構想した。1970年代初頭から収集を本格化し、ピカソやカンディンスキーなどの西欧絵画に加え、米国の現代絵画にも早くから目をつけ入手した。

東京・日本橋の本社と成田空港の間にある千葉県佐倉市に、まず総合研究所を開設。その4年後の90年、同敷地内に勝巳を館長とする美術館を開館した。化学メーカーとして周囲の環境に配慮しつつ、地域の文化に貢献するという大きな役目もあったのかもしれない。今では近隣住民の憩いの場になっている。

同館の特色は、作品に合わせて設計した独特の心地よい展示室だろう。例えば、創業100周年を記念して2008年に増築した「ロスコ・ルーム」。天井の低い小部屋に、抽象表現主義を代表するマーク・ロスコの迫力ある作品群が並び、神秘的な空間を醸し出す。フランク・ステラの抽象絵画も見どころの一つ。3代目社長の川村茂邦は作風を大胆に変えるステラを好み、次々と収蔵品に加えたという。

庭園にも彫刻があり、20世紀美術中心の多彩な収蔵品は野外でも見られる。開館30年を過ぎた。総務グループの早川裕之マネジャーは「研究所との連携もより深めビジネスの機会を探求したい」と語る。化学で彩りと快適を提案する同社は、アートと共に進化する。

【メモ】▽開館時間(通常)=9時30分―17時▽休館日=月曜日(祝日の場合は翌平日)など▽入館料=展覧会により異なる▽最寄り駅=JR総武線「佐倉駅」ほか▽住所=千葉県佐倉市坂戸631▽電話番号=050・5541・8600

日刊工業新聞2022年3月11日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
DICといえばカラーガイド(色見本帳)と言われるくらい、デザイン関連業界ではよく知られた会社だ。もともとアートと親和性の高い色彩化学メーカーであり、幅広いコレクションをそろえた美術館は企業の広告塔になっている。研究所では地元の学校向けに「色彩と化学」などの授業を提供しているが、アートとサイエンス、ビジネスが融合しつつある現在、研究所と美術館はもっと新しい価値を生み出せるような気がする。

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