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「改正電子帳簿保存法」施行後の実態調査が明らかにした企業の課題

企業における請求書関連業務の取り扱いに大きな影響を及ぼす改正電子帳簿保存法(改正電帳法)が、2022年1月に施行した。改正のポイントとして「電子データで受領した請求書は電子での保存が義務となる」点が挙げられるが、21年末に公表された「令和4年(22年)度税制改正大綱」において2年間の宥恕(ゆうじょ)措置期間を設ける方針が示されたことで、対応が間に合わなかった企業に準備期間が与えられることになった(解説記事はこちら)。

このような背景を踏まえつつ、Sansanが実施した改正電帳法に関する調査の結果から見えてきた企業の実態や課題を解説しながら、企業が今取るべき行動を提唱する。

対応済みの企業は約3割

改正電帳法に盛り込まれた「電子で受け取った請求書は電子で保存しなければならない」という規定は大きなインパクトがあった。

しかし令和4年度税制改正において、電子データで書類を受領した場合の電子保存の義務は23年12月31日まで2年間、宥恕措置が設けられた。つまり、今は「改正電帳法は施行されているものの、従来と同様の対応でも許容される」状況にあるわけだ。

こうした状況下で、企業の改正電帳法対応の実態はどうなっているのだろうか。

Sansanが22年1月に実施した「改正電子帳簿保存法施行後の実態調査」によると、「勤務先が改正電帳法に対応しているか」という質問に「対応している」と答えた人は31.5%だった。宥恕措置が設けられたことの影響も大きいが、改正電帳法が施行されても、対応率は低い実態が明らかになった。

さらに従業員数の規模別に見ると、大企業ほど早く対応している事実もわかった。これは、請求書関連業務は部署を横断して関わる人が多く、全社的な業務のため、従業員数が多くなればなるほど、法改正の理解や社内への周知、新たなワークフローの構築に時間と手間がかかる危機感を持っていることが一因だろう。

一方、中小規模の企業は、「その気になればいつでもできる」、あるいは「対応方法がよくわからないから様子見をしておこう」と、対応を先延ばしにしているのではないだろうか。

こうした単なる先延ばしには警鐘を鳴らしたい。というのも、改正電帳法に対応するためには既存のワークフローの見直しが必須であり、短期間でできるものではないからだ。調査では、改正電帳法の対応を検討する時期について44.2%の人が「まだ決まってない」、22.0%が「わからない」と答えている。

具体的なビジョンがないままの先延ばしは、2年間という与えられた時間を無駄にしてしまう危険をはらむ。請求書に関連する業務は経理部門だけのものではなく、部署を横断して全社的に関わる。たとえば、これまで電子請求書を書面に出力して経理部門に提出していた企業などでは、電子保存の方法を検討して整備し、ワークフローを構築し直して実際に運用していく必要がある。時間はあるようでないのだ。

今企業がすべきこと

改正電帳法への対応が3割にとどまり、あまり進んでいない実態を生み出した根本的な要因は、電帳法=義務的にやらなければならない面倒なもの、と捉えられてしまったからだと考える。

本来、電帳法は、従来紙でのやりとりが原則だった国税関係書類の取り扱いについて、電子での取り扱いも認めることにより、「より便利にする」ため、「効率化する」ための法律だった。法改正の対応は面倒だという意識が先行しがちだが、業務効率化につながると捉えることが重要だ。

実際に、改正電帳法にすでに対応している企業は、約7割が業務の変化にメリットを感じていると答えている。新しい業務フローの構築に当たっての戸惑いや混乱、エラーは当然あっただろうが、それを乗り越えた先には、「対応してよかった」と思える状況が生まれている。

具体的なメリットは、請求書を処理する時間が減ったことや、請求書を探すのが容易になったことなどだ。コロナ禍でもリモートワークが難しく、請求書処理のための出社を余儀なくされていた経理部門の社員も、電帳法対応をきっかけに業務がデジタル化され、在宅勤務ができるようになったという声もあった。

改正電帳法への対応は、単に法律を遵守する目的だけではなく、業務を効率化する絶好のチャンスだ。まずは電帳法に対する意識を変え、こうした目的意識を持って前向きに取り組むといいだろう。

「改正電帳法の施行を契機とし、2年かけて請求書関連業務全体を効率化する。結果として、法改正への対応も実現できた」という状況をつくることができれば理想的だ。

まだ対応を始めていない企業は、早めに業務フローなどの問題点や課題をあぶり出し、改善していってほしい。24年1月からの義務化を安心して迎えるために、自社に合った対応方法を確立していく2年間にしてもらいたい。

そのためにすぐにできるのは、積極的な情報収集だ。電帳法対応サービスを提供する各社が開催しているセミナーに参加するなどして、法律の理解はもちろん、「どのような対応方法が自社に合っているか」のイメージを膨らませておきたい。その上で、サービスの導入を検討して使ってみるのもよいし、自社規程を備え付けて対応してもよいだろう。

デジタル化が企業や個人にもたらすメリットは大きい。23年12月までの宥恕措置期間を、電帳法対応だけでなく、「業務効率化を推し進め、組織全体の生産性を上げるための2年間」ととらえ、有意義に活用してほしい。

柴野亮:公認会計士|Sansan株式会社 Bill One Unitプロダクトマーケティングマネジャー。監査法人で勤務後、Sansan株式会社に財務経理として入社。経理実務、資金調達等を担当時、紙の請求書の非効率性に課題をもちBill Oneを起案。現場視点から改正電帳法の啓発活動に力を入れている。
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