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物流需要の増加に応える。倉庫ロボットサービスを競う

物流需要の増加に応える。倉庫ロボットサービスを競う

荷物を仕分けるロボット(写真はプラスオートメーションのデモ施設)

物流倉庫に自動化の波が押し寄せている。人手不足に加え、コロナ禍で電子商取引(EC)化が進み物流需要が増加しているからだ。

倉庫の自動化ニーズを取り込もうと、クラウドコンピューターで制御するロボットを販売する企業が増えている。倉庫の拡張などに応じた台数の追加など柔軟性に加えて、初期投資を抑えられる点がメリットだ。EC需要の拡大に伴う倉庫の新設も追い風に、スタートアップや大手商社がサービスを競う。

人手不足が自動化を促す

国土交通省は「総合物流施策大綱(2021~2025年度)」の中で物流サプライチェーン(供給網)全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性を指摘する。背景にあるのは人手不足だ。荷物量によって業務の負荷が変わる現場において、省人化や効率化は経営の安定に繋がる。

倉庫のロボット利用では海外が先行する。国際ロボット連盟(IFR)が調べた「WorldRobotics2021レポート」によると、2021年の中国へのロボット導入数は前年から20%増の16万8400台と世界最多だった。中国のEC大手、京東集団(JDドットコム)はほぼ人の手が介在しない物流施設を構築している。

一般的に海外に比べ、日本の倉庫の面積は小さい。そのため既存倉庫の限られたスペースでも稼働できる自律移動ロボット(AMR)の開発に注力する企業が増えている。IFRのレポートによれば、AMRと配達ロボットの売り上げは前年比11%増の10億ドル(約1200億円)を超えた。既存のオペレーションの変更箇所を少なくし、人をサポートする生産性向上を商機にする。

ラピュタロボティクスのAMR

ラピュタロボティクス(東京都江東区)は横48センチメートル、縦140センチメートルのAMRを導入する。強みは複数のロボットを同時に制御する「群制御AI」だ。AIが課題に対する最適な行動を複数台のロボットにフィールドバックする。稼働中に故障を起こしたロボットがいる場合でも、動けるロボットが行動を再計算する。倉庫での業務が止まるのを防ぐ。ロボットが移動することでピッキング作業を効率化する。

2~3人の作業員で担当していた仕事を、1人の作業員と2~3台のロボットで置き換える。すでに日本通運などの拠点で稼働しており約100台以上を出荷した。ソフトウエアのアップデートを通じて、導入後もロボットの機能向上を行う。森亮執行役員は「ただロボットを導入するだけでなく、生産性向上という結果を出すことにこだわる」と強調する。

シリウスロボティクスのロボット

中国のシリウスロボティクスもAMRを開発する。作業員が使いやすいようにタブレット端末から倉庫内のマッピングや移動コースの指定などをできるようにした。自社で開発するAIが位置情報を認識し、自走する場所を把握する。ロボットの制御は自社のクラウドシステムで行う。個別のロボットがマッピングした倉庫内の地図や活動履歴を共有し、ロボットの能力向上に生かす。

新設倉庫も追い風

倉庫の自動化はEC需要の増加による倉庫の新設も追い風だ。SBSホールディングス(HD)は30年までに約1600億円を投じて、首都圏にEC荷物専用の拠点を15カ所ほど新設する。物流不動産開発大手以外にも、ニトリホールディングスなど小売業界でも自ら物流網を構築する動きがある。

ギークプラスは大型の施設に向けたロボットを展開

中国のスタートアップ、ギークプラスは搬送型ロボット「GTP」を展開する。GTPは商品が収納されている棚を人の前まで運ぶ。安全のため人とロボットが働くエリアを区切る必要がある。大型施設で運用するため、導入は海外が先行してきた。日本法人の佐藤智裕社長は「GTPは人がピッキングする必要がなくなる。大型で新設の倉庫であれば導入はしやすい」と話す。

利用を想定するのは約1650平方メートル以上の倉庫。自社での検証を踏まえこれ以上の大きさがあれば費用対効果を出せるという。新設倉庫や規模を拡大していく前提の顧客をターゲットに定める。既存の導入顧客がロボットを追加する際にも、中一日で顧客の倉庫にロボットを届けるなど、荷物の量に応じた柔軟な運用をサポートする。

導入先にはスポーツ用品販売大手のアルペンやアスクルなど、個別配送する品物が多い事業者が中心だ。佐藤社長は「ECでは個別梱包が多くピッキングの手間がかかる。一括で必要なものを取り出せるGTPの特徴とマッチしている」と特徴を話す。

AMRとAGVの機能を使い分ける

レックスプラス(神奈川県川崎市)も新設倉庫への導入を狙う。AGVとAMRの特徴を組み合わせたロボットを開発する。日によって変わる業務は、AMRで人と共存しながら働く。対して、毎日規則通り発生する業務はAGVの動きでカバーする。阿蘓将也最高経営責任者(CEO)は「テープに沿って動くAGVのモードであれば、何秒に何回、荷物を運ぶという精度を保証できる」と自信を見せる。

横60センチメートル、縦70センチメートルと小型であるため、他の設備とも共存しやすい。300キログラムまで積載できるため、台車やパレットなど多様なケースに対応する。21年から本格的なサービスを開始した。

クラウド制御のメリットは機能以外にも

クラウドコンピューターでロボットの制御や機能追加をするのは、導入顧客には使い勝手以外のメリットがある。サブスクリプションモデルのRaaS(サービスのためのロボット)という販売方法を選択できるからだ。従来は自動化のためには、マテハン設備を導入するほかなく大型の初期投資が必要だった。ただ人手不足から、大手企業だけでなく中小企業にも自動化ニーズが広がっている。そこでクラウド上でロボットの管理や追加を行える柔軟性をいかし、サブスクリプションで販売するのがRaaSだ。

シリウスロボティクスと物流スタートアップ、キークルー(東京都渋谷区)が共同出資でRaaSを手掛けるROBOCREW(東京都千代田区)の中村慶彦CEOは「ソフトウエアの更新を通じて、機能が向上するクラウド制御のロボットとサブスクリプションは相性がいい」と話す。

継続課金によってロボットメーカーはソフトウエアの更新費と継続的な収益源を得る。導入企業は初期投資を抑えつつ、機能向上に対して利用金額を支払う。初期負担を少なくし、自動化による生産性向上を実現して解約リスクを減らす。

目をつけるのはスタートアップだけでない。物流ノウハウを持つ、大手商社もサービスを開発する。

大手商社もサービス展開

プラスオートメーションのデモ施設

「今も1500台以上のロボットが各拠点で稼働している」。三井物産が出資するプラスオートメーション(東京都港区)の山田章吾最高執行責任者(COO)は自社サービスの稼働状況をこう話す。

同社が提供するのは、異なるさまざまなメーカーのロボットを同時に制御する中間ソフトウエア「+hub(プラスハブ)」。このソフトウエアを起点に目的に応じたロボットを紐づける。倉庫管理システム(WMS)などのデータをソフトウエアに連携し、ロボットへ最適な行動を指示する。ロボットとソフトウエアをサブスクリプションで提供する。当初はオンプレ方式でしか提供していなかったが、クラウド方式での提供も始めた。

高木一郎チーフエンジニアは「オンプレに比べ、クラウドはソフトウエアの修正や仕様の変更をかけやすい」と利便性を話す。また、機能に関しては「各社の最大公約数の機能を一斉で実装でき、ノウハウを合わせやすい」と話す。顧客には、ピッキングや仕分けなどで使うロボットとソフトウエアを同時に提供する。価格は月額で5台、税別30万円から。

三菱商事ロジスティクスの倉庫で運用するGTP

三菱商事も月額サービス「Roboware」を展開。プラスオートメーションと同様にロボットへ指示を伝えるソフトウエアと、ロボットをセットで提供する。大きな違いはターゲットにする倉庫の規模を問わないことだ。物流開発部の大木麻衣マネージャーは「導入のハードルを下げることで、中小規模の倉庫にも広げたい」と話す。安心感を与えるため、導入金額をホームページから確認できるようにしている。

もちろんロボットを導入するだけで自動化を行えるわけではない。倉庫内を行き交うさまざまなデータを連携し、活用することも必要だ。

物流関連システムのGROUND(グラウンド、東京都江東区)はさまざまなシステムを一元管理する、物流施設統合管理・最適化システム「GWES」を手がける。マテハンなどを制御する倉庫制御システム(WCS)や在庫を管理する倉庫運用管理システム(WES)、WMSなどのデータを一括で管理し分析する。それをもとに従業員の人的配置を効率化したり、最適な荷物の配置やピッキング作業順序を提示する。すでにトラスコ中山が24年に愛知県で新設する施設への導入が決まっている。

山口春奈本部長は「ニーズに応じた自動化倉庫という点においては、新設倉庫の方が取り組みやすい」と話す。同社はシステムの導入に加え、倉庫のオペレーションやロボット導入のコンサルティングも行う。システムやロボットを導入するだけでなく、それらを活かすオペレーションも最適化する必要があるため、それぞれを組み合わせることが重要だという。

世界銀行が18年に調べた「物流パフォーマンス指数(LPI)」での日本の順位は5位。コストに対する品質の高さが評価されている。それゆえロボットを定着させ得ながら、結果を出すのは容易ではない。ラピュタロボティクスの森執行役員も「日本の物流倉庫で活躍できるロボットのハードルは高い」と話す。

各社の導入台数が数十台から数百台と、日本では少ない倉庫へのロボット導入。導入フェーズを超えて、活用フェーズに移行できるか。ハードとソフトの機能拡充に加えて、顧客のオペレーションや意識を変えられるのかも重要だ。

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