「人生最後の靴」手掛ける企業がこだわる、手袋縫製で培った技術力と品質
徳武産業は高齢者の転倒予防のための個別の状態を踏まえた細やかな靴づくり、アンケートによる不具合情報の収集と改善に向けた取り組み、自社・製造委託先・販売先などに向けた充実した製品安全教育が評価され、第15回製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)で経済産業大臣賞を受賞した。
香川県東部は、全国生産の9割を占める手袋の産地。65年前、この地で同社は綿手袋縫製工場として創業した。だが、季節商品だけに繁忙期と閑散期が発生してしまう。年間を通して業務の平準化を図るため創業社長の決断で事業を手袋から履き物に転換した。
その後、大手通販会社、旅行代理店のOEM事業へ軸足を移したが、2代目社長(現会長)は、大手企業への依存体質からの脱却するために自社ブランドの創出を模索。高齢者施設を経営する友人からの高齢者用のシューズ製造依頼がきっかけで、ケアシューズ「あゆみ」の誕生に繋がった。「下請けから脱却し、日本一のシューズメーカーになる」が2代目社長の考え方だったと西尾聖子社長は話す。開発に着手したものの、そこに通常の靴とは異なる高い安全性が求められた。
第一に考慮すべきことが転倒予防。筋力の低下で変化する歩き方に着目し、つま先の適度な反り返しや特殊な中敷き等独自の工夫を凝らした高齢者用シューズを開発した。ただ、高齢者を一括りにはできない。個人差に加え健康状態、使い方の環境などが異なるからだ。誰もが安心して履くことができる安全なシューズ作りは至難だった。「想定外の使われ方が多く驚くことも。お客様の声を丁寧に聞き、改善につなげていくしかなかった」と西尾社長は説明する。
製品安全は、自社基準によるチェック、高齢者へのモニター実施、医療従事者、福祉関係者など外部専門家からの客観的なアドバイスを受け万全を期す。高齢者の個別の状態に対応するため業界初の左右サイズ違い、片方のみの販売や、顧客の足の状態に合わせて安全性を高めるパーツオーダーシステムも導入している。
また月1回、製品安全の知識と技術継承を目的にした社員研修を行うほか、製造委託先との安全性の共有、全国の販売店を対象に研修プログラムや資格制度を設けるなど関係者すべてに製品安全教育を徹底している。
「人生最後の靴」重い責任
安全性を追求する姿勢は、販売時に同梱する「アンケートハガキ」に表れている。年間2万通にも及ぶ返信から、製品の不具合や使用実態について情報を収集し分析する。そこから製品安全上の問題点などを早期発見できるようにしている。それだけでなく「感動的な感謝の気持ちが添えられており、これを読む社員たちは安全への思いを一段と強くします」と強調する。
手袋縫製で培った技術力と品質に拘り続ける企業文化。さらに利用者にとことん寄り添う姿勢、思いが相まって新分野である安全な高齢者用シューズが誕生した。「人生最後に履く靴です。私たちの安全への責任は重い」という。
【会社概要】
▽設 立=1966年
▽代表者=代表取締役社長・西尾聖子氏
▽所在地=香川県さぬき市
▽従業員数=80人
▽事業内容=ケアシューズ(高齢者用シューズ)、ルームシューズの開発・製造・販売
製品安全対策優良企業表彰(PSアワード)
製品安全に積極的に取り組む製造事業者、輸入事業者、小売販売事業者、各種団体を企業単位で広く公募し、厳正な審査の上で「製品安全対策優良企業」として表彰する。各企業が扱う製品自体の安全性の評価ではなく、製品安全活動に関する取組を評価する。受賞企業・団体は「製品安全対策優良企業ロゴマーク」を使用し、製品安全対策の優良企業・団体であることを宣伝・広報できる。