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【連載】基礎からわかる!MRJ(3)「GTFエンジン」

最大の特徴は低燃費エンジン
【連載】基礎からわかる!MRJ(3)「GTFエンジン」

飛行機に作用する4つの力

 MRJ特別連載の第3回目。前回までは(1)MRJの座席数や投入路線、(2)なぜ今、開発されているのか――。を解説した。今回は、MRJの最大の特徴でもある「GTFエンジン」にスポットを当てる。

◆なぜ飛行機は飛ぶ?
 エンジンの話をする前に、飛行機はなぜ空を飛ぶのか、という基本から押さえたい。図に示したように、飛行中の航空機には4つの力が作用している。機体を前に進めようとする「推力」、その反対である「抗力」、機体を浮かばせようとする「揚力」、沈ませようとする「重力」の4つだ。これらの力が釣り合って初めて、飛行機は安定して飛ぶことができる。推力が効力よりも大きければ加速するし、小さければ減速する。飛行機のエンジンは、機体を前に進める力、すなわち「推力」を生み出す装置なのだ。

◆ジェット機のエンジン
 現代の航空機の主流は「ジェットエンジン」で飛ぶ機体。MRJもジェットエンジンを積んでいる。
 ここで一度、風船を思い浮かべてみてほしい。風船に空気を吹き込んで膨らませ、手を放すと、風船は勢いよく飛んでいく。風船の中にある圧縮空気が勢いよく吹き出すためだ。ジェットエンジンも風船と同じ原理を持っている。圧縮空気を機体後方に吐き出し、噴流(ジェット)をつくることで、推力を得ているのだ。

 風船は内部の圧縮空気がなくなるとしぼんでしまうが、ジェットエンジンは、機体を飛ばし続けるために常に圧縮空気が必要となる。そこで、機体の前方から空気を吸い込み、圧縮機(コンプレッサー)によって圧縮。それを燃焼室に送って高温・高圧にし、それを排気口から勢いよく吹き出すという構造が採用されている。
 「吸気、圧縮、燃焼、排気」。ジェットエンジンのメカニズムは、この4つに集約される。

◆「GTF」って何?
 以上が一般的なジェットエンジンの説明だが、MRJは、ジェットエンジンの中でも「GTF」(ギアドターボファン)と呼ばれる新開発のエンジンを採用しており、競合機と比べ、「燃費を「2割程度低減」(三菱航空機)しているのが大きな特徴だ。

 ギアドターボファンは、航空エンジンの世界3大メーカーである米プラット・アンド・ホイットニーが開発中のエンジンだ。エンジン内部にギアを入れることで、「ファン」と呼ばれる吸気装置と「タービン」と呼ばれる動力源の回転を、最適に制御し、燃費や騒音を大幅に改善している。旅客機としては、2008年にMRJが世界で初めて採用を決定。その後はカナダのボンバルディアや欧州エアバスなどの飛行機にも採用が広がっている。


◆さらに「GTF」を詳しく知りたい方へ・・・
 そもそも、ジェットエンジンとは、戦闘機に使われる「ターボジェットエンジン」と、主に旅客機で採用される「ターボファンエンジン」の2種類に分けられる。
 ターボジェットは、燃焼室を通った圧縮空気だけを吐き出すエンジンだ。これに対して、ターボファンは燃費を向上させるため、燃焼室から出た圧縮空気のほかに、「ファン」という扇風機のようなものを回して吸い込んだ空気も、機体後方に送り出して推力を生み出す。この空気は燃焼室を通らないという意味で「バイパス」空気と呼ばれる。

 旅客機用のエンジンは、常に「燃費向上」が最大のテーマ。当然ながら、燃費を良くするためには燃料の消費量を抑える必要がある。そこで、エンジンメーカーは、燃焼室で圧縮された空気でなく、なるべく「バイパス空気」の量を増やそうとする。バイパス空気を増やすには、ファンを大型化すればよい。

 こうして旅客機用エンジンのファンはどんどん大型化していったが、ある時、限界が来た。ファンを大型化し過ぎると、外周部分の回転速度が上がり、ついには音速に達してしまうのだ。音速に達すると大きな空気抵抗が生まれてしまう。
 そこで、ファンの回転数を制限する必要性が出てくる。しかし、ファンの回転軸とタービン(圧縮機を動かすための装置)の回転軸は同じなので、ファンの回転を抑えると、同時にタービンの回転数も落ち、圧縮機のパワーが下がる。すると、圧縮空気の量が少なくなり、推力が落ちてしまう。

 ここで出てきたのが「GTF」だ。GTFとはGeared Turbofan(ギアドターボファン)の略。文字通り、ギアのあるターボファンエンジンだ。先ほど、「ファンの回転軸とタービンの回転軸は一緒」と書いた。GTFは、ファンとタービンの間に減速ギア(歯車)を入れることで、タービンを高速で回しつつ、ファンを低速で回転させることを可能にした。これによって、ファンは大型化できた。

 GTFの研究自体は昔から進んでおり、かつてはプラット・アンド・ホイットニー以外に米ゼネラル・エレクトリック、英ロールス・ロイスも取り組んでいた。ただ、ギアを入れることによる重量増や信頼性の確立が難しく、これまで旅客機の世界で日の目を見ることはなかった。

◆「低燃費」という武器
 三菱航空機は、市場への新規参入ながら、あえて開発中のGTFエンジンを最初に選んだ。そうすることで、リスクと引き替えに、その大きな魅力である「低燃費」という武器を手に入れたと言えよう。しかし、開発中のエンジンだけに、ボンバルディア向けのGTFエンジンで14年に故障を起こすなど、トラブルも起きている。

( 第4回、「なぜMRJの開発は遅れているの?」は、27日掲載予定です )
ニュースイッチオリジナル
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
今回は旅客機の性能に直結する「エンジン」を取りあげました。GTFエンジンにはとても期待しています。三菱の関係者に聞くと、「とても静かなエンジン」だそうです。楽しみ。

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