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2025年にファーストプラズマ 世界の7極、35カ国が参加する”核融合”大型プロジェクト

2025年にファーストプラズマ 世界の7極、35カ国が参加する”核融合”大型プロジェクト

ITER全体像(ITER機構提供)

【座談会メンバー】
 ■福田誠氏 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 量子エネルギー部門 那珂研究所 ITERプロジェクト部 プラズマ対向機器開発グループ 主任研究員 工学博士
 ■飯倉武志氏 株式会社アライドマテリアル 熱マネジメント事業部技術部 加工技術グループ 主事
 ■新井真人氏 三芳合金工業株式会社 製品開発課 係長
 ■大森千里氏 金属技研株式会社 エンジニアリング事業本部 エンジニアリング部 核融合機器課/茨城工場 技術課 技術二係 主任(2022年3月1日より)

司会 お集まりいただきありがとうございます。本日はITER( イーター)計画の中核部品であるダイバータを製作する方々が一同に会する貴重な機会です。日本の産業界の取り組みを広く発信できればと思います。まず、イーター国内機関の量子科学技術研究開発機構(QST)量子エネルギー部門那珂研究所ITERプロジェクト部プラズマ対向機器開発グループの福田誠主任研究員にイーターの概要をお話いただきます。

【日本は核融合を維持する主要技術を】

福田誠氏 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 量子エネルギー部門 那珂研究所 ITERプロジェクト部 プラズマ対向機器開発グループ 主任研究員 工学博士

福田氏 よろしくお願いします。イーター計画は核融合エネルギーが科学技術的に成立することを実証することが目的です。世界の7極、35カ国が参加する超大型プロジェクトで、現在、フランスで建設が進んでおり、2021年5月時点でプロジェクトの73.7%以上まで進んでいます。建物はだいたい完成しており、2025年にファーストプラズマ(運転開始)を予定しています。その後、運転を徐々に進めて炉内機器を挿入、重水素と三重水素を燃料とした運転開始を2035年に計画しています。我々が担当しているダイバータ以外にも、超伝導コイルや、遠隔保守機器、高周波加熱装置などイーターの主要機器を日本が担当しています。

核融合を取り巻く環境については、近年は特に、各国で核融合を推進する動きが活発になっており、米国、中国では日本のスケジュールをはるかにしのぐペースで原型炉や商業炉をつくるという計画が立てられている状況です。そうした中でイーター用ダイバータに関してもきちんとした製作技術を確立しつつ、スケジュールを守って着実に製作を進めていくことが大事だと考えています。我々が調達を進めているイーター用ダイバータに関しては、現在プロトタイプを製作しています。プロトタイプで技術を検証・実証した後、今年度末から実機の製作を開始する予定です。製作数量は、炉内に設置する54カセットの他、スペア4カセットを含む合計58カセットを製作します。現在の計画では、2024年から2028年にかけてダイバータをイーターに順次搬入する予定です。

高い熱負荷を受けるダイバータに求められる最も大切な機能は除熱機能です。ダイバータの受熱面側にはプラズマ対向ユニットが設置されます。プラズマ対向ユニットには、表面が溶けないようにするために、金属の中で最も融点が高く、熱伝導率が高いタングステンを使用します。また、ダイバータを積極的に冷やすためには熱伝導率の良さだけではなく、熱がきちんと伝わって逃げるようにする接合技術も重要です。今日集まっていただいた3社はダイバータのプラズマ対向ユニットの製作に欠かせない重要な技術力をお持ちで、活躍していただいています。

【接合技術は応用できる】

司会 ありがとうございます。タングステンモノブロックを担当するアライドマテリアル、銅合金管を担当する三芳合金工業、これらの接合を担う金属技研がイーター計画に参加したきっかけを教えてください。

飯倉武志氏 株式会社アライドマテリアル 熱マネジメント事業部技術部 加工技術グループ 主事

飯倉氏 イーター計画は非常に夢があり、いまだかつてない国際プロジェクトです。当初から諸先輩が技術を持ってこれに貢献したい熱意、思いを持ってきたのが大きなきっかけだと思います。自分自身は2013年にタングステンの板の技術担当になり、イーターの勉強を始めました。知れば知るほど、自分の作ったものを使ってもらいたい、貢献したいという気持ちを持ちました。2018年にイーター機構を訪問して建設中の建物を見学した際にこうした気持ちがさらに強くなる一方、自分たちのつくったもので失敗してはいけない、しっかりした安定した品質のものをつくらなければいけないという覚悟を持ちました。

新井真人氏 三芳合金工業株式会社 製品開発課 係長

新井氏 ダイバータに使う管材の調達については当初大手メーカーにお声がけしていたそうですが、そこを通して当社を紹介していただいたのがきっかけです。2007年に始まって今まで開発を続け、管の製作を続けています。私は2009年入社ですが、今の部署に異動したときに製造工程を完全に見直すという動きがありました。その作業をほとんど自分の部署でやったこともあり、この巨大プロジェクトを最後まで見届けたいという気持ちでやっています。

大森千里氏 金属技研株式会社 エンジニアリング事業本部 エンジニアリング部 核融合機器課/ 茨城工場 技術課 技術二係 主任(2022年3月1日より)

大森氏 当社はもともとQSTと様々な仕事させていただいています。ダイバータの熱負荷部にも関わり、グラファイトのモノブロックを検討しているころから私が前任者から引き継いでやっていました。このたびはタングステンということで、異なる材質、物性ですが、コンセプトと形状はほぼ同じで、接合技術は応用できるということで引き続き参加しています。

【3社生産体制強化】

司会 ダイバータは2024年からイーターに入るそうですが、現在の進捗状況はどうですか。

福田氏 ダイバータのプロトタイプを製作中です。ダイバータ実機の製作に必要となる材料の製作も進めており、タングステンモノブロックは最終的には約20万個を製作する予定です。銅合金管も約1800本製作する予定で、今年度から製作開始予定です。ダイバータ実機用の材料製作もいよいよ本番という状況です。

飯倉氏 2021年1月にQSTからモノブロックの実機の契約を頂きまして、現在製造しています。ただ、今まで既存ラインで製造している中で、大量生産には能力が足りない。このため2年ほど前から新ライン構築を検討してきました。ようやく10月に新ラインが立ち上がり、本格的な量産を開始した段階です。

新井氏 2022年1月に契約締結しました。製造にあたって1800本というのはかなり多いので、それにあわせた生産体制を拡充しました。

大森氏 今ちょうど、先日製作したタングステンのモノブロックのお話が進んでいます。先般行ったろう付製品について、製品の色合いや接合界面の状況など、違った炉を試して変化を見てみようということをやっている段階です。大量のモノブロックを作るとなると、治具や炉の細部の制約などである程度製作個数に限りがあり、改良していきたいと考えています。

ダイバータに使用されるタングステンモノブロック(中央部はろう付のための銅製緩衝材)

【3社のすばらしい技術力】

司会 核融合炉という夢の技術を支えるダイバータですが、着目してほしい点、注目してほしい点はどこでしょうか。

福田氏 ダイバータのプラズマ対向ユニットはタングステンモノブロック内に接合する銅合金冷却管の内部に水を流して強制的に冷却する構造です。ですので、水漏れ等が起きないようにするために銅合金管自体の信頼性が重要です。また、イーター運転中の熱負荷は一定ではなく、温度が幅広く上下するので、タングステンや銅合金管は繰り返し熱負荷を受けても損傷したり割れたりせずに健全性を維持してもらう必要があります。このため材料の特性が非常に重要になってきます。さらに繰り返し熱負荷を受けるとタングステンと銅合金管の接合界面が剥がれるという懸念もあります。金属技研は優れた接合技術をお持ちです。もう一つ、ダイバータに限らず、イーターの機器には非常に高い精度が要求されます。ダイバータの場合、例えばタングステンモノブロックでは一番厳しい部分でプラスマイナス25ミクロンの加工精度を要求しており、銅合金管についても非常に厳しい要求をしています。アライドマテリアル及び三芳合金工業は、これらの厳しい精度要求を満足する素晴らしい技術力をお持ちです。また、接合に関してもタングステンモノブロックを一定のギャップを設けて並べた状態で銅合金管を接合する必要があるのですが、そのギャップは0.4ミリメートルである等、厳密な寸法管理が求められます。そういった要求を満たした接合が実現可能である点も、金属技研が高い技術力をお持ちであることの証明だと思います。

ダイバータ構造品(実機長さの1/15モデル)

【世界に通用する3社】

司会 こうしたダイバータは国際的にどのくらいの競争力を持っているのでしょうか。

福田氏 銅合金管については大和合金(三芳合金工業のグループ企業)が欧州向けにも製品を製造されており、高い競争力をお持ちだと思います。また、タングステンに関しては、海外製を含む複数のメーカーの特性評価が行われてきましたが、繰返し熱負荷を与えるとき裂が入ってしまうタングステンもありました。そうした損傷が起きないタングステンを製作できたのは、これまでアライドマテリアルだけです。ダイバータは、日本が担当する外側垂直ターゲット以外にも、内側垂直ターゲットやドームといった機器から構成されており、これらはEUやロシアといった他極で製作が進められています。他極が調達しているダイバータも実機製作のフェーズになっていくので、これから積極的にシェアを広げていただきたいと思っています。

司会 割れないのはアライドマテリアルだけというのはすごいですね。

飯倉氏 イーターの高い熱負荷がかかるなかで損傷しない、割れないモノブロックを目指してきました。10年前くらいからQSTにモノブロックを納めてきましたが、実際にイーターに向けた熱負荷試験をした際、当社のものだけ割れない、表面が荒れないという評価を頂きました。正直、その時点ではなぜそうなるのかが分からず、理由をいろいろ調べてきました。そういった取り組みができるのもタングステンの粉末から最終製品まで一貫してやっている弊社の強みです。最終的に熱負荷をかけてもほとんど表面が荒れないモノブロックの条件を確立できました。逆に意図的に表面がぼろぼろになる作り方も確立できまして、今ではタングステンの板の状態をコントロールできるようになっています。イーターについて一貫してやっている経験、蓄積があり、諸先輩がたの取り組みがあってつくることができました。割れないモノブロックを作り上げたことが強みだと思っています。

司会 三芳合金工業の加工・販売会社である大和合金は欧州でもイーターに採用されています。

新井氏 一緒に仕事をしている中で、QSTの海外発表の際に当社との取り組みを紹介して頂き、各国のダイバータを製作する研究機関から話をいただきました。ダイバータを製作する国の会社のほとんどに管材を納めています。またファーストウォール(プラズマに面する壁)に使用される板材も出荷しています。小さな中小企業ですが、世界に貢献していると思っています。

ダイバータに使う冷却管ですが、アライドマテリアル、金属技研の技術を合わせて接合しますが、接合の際に高温に上げるため管の結晶粒が粗大化してしまい、その後の熱負荷によって割れる現象がおきることがあります。入社後配属されて、製造工程を見直しながらの各工程で試験片の結晶粒を確認するという作業を続け、その中で最適な条件を見出した結果、結晶粒が粗大化しない現行の製品を製作できました。接合の条件は企業ごとに多少異なっていまして、日本よりさらに高い温度で接合するという話もあります。今の技術をベースに、さらに高温での接合条件にいかに対応するか。製造を続けながら最適なところを合わせこむ作業が続いていますが、乗り越えていけると考えています。

【接合に関するデータベースをフル活用】

司会 これらの材料を接合する金属技研の技術のポイントを教えてください。

大森氏 当社の接合技術で代表的なものに、高温高圧下の接合界面で原子を拡散させて接合するHIP(熱間等方圧加圧)があります。今回はろう付ということで、材料より融点が低いろう材で接合する技術を使用しています。どの接合を使うかは、材料の状態や形状、お客さまの都合などを確認して最適なものを選択します。今回、製作したものは外側にタングステンのブロック、中に緩衝材、内側にクロムジルコニウム銅の配管をろう付します。難しい点は、銅は熱膨張が大きく、タングステンは逆に小さい材料なことです。実際に製作すると温度分布によって膨張しすぎたり、膨張しなかったり、ろう付炉内の温度分布で接合状況が変わるので、コントロールが必要です。当社は今まで行ってきた接合に関するデータベースを持っています。その中から似た条件を調べて、最適なものを選んで接合できるのが強みです。0.4ミリメートルというギャップのコントロールですが、実際にろう付すると1000度近くあがったときに、セット状態では0.4ミリメートルだったものがのびるわけですが、収縮の状態により製品のギャップが変わってしまいます。接合界面の状況のコントロールや熱応力のコントロール、ギャップなどいろいろ考えるべき点があるのですが、そこを豊富な実績や必要なら熱シミュレーションを活用しながら事前にチェックしながら接合して失敗率を下げる。失敗した場合はその原因を突き止める場合に、実績をもとに原因を素早く探ることができると自負しています。

【オールジャパンでいいものを】

司会 核融合は最先端の技術であり、様々な課題を解決する切り札ともされています。みなさんがイーターにかける思いを聞かせてください。

福田氏 学生時代から核融合に関する研究に携わってきましたが、当初は夢のエネルギーだと言われ、延期されていつ実現するのかよく分からないと感じることもありました。しかし現在は、イーターの建設が着実に進み、核融合エネルギーの実現が間近になっているので、現在のこの仕事に非常にやりがいを感じています。また、ダイバータというのは非常に過酷な条件で使われる機器で、こうした過酷な条件に晒される機器、材料の研究ができる点にも魅力を感じています。

飯倉氏 他の仕事も課題に立ち向かう点では変わらないですが、やっぱりイーターに関しては、環境問題やエネルギー問題も解決していくような大きなプロジェクトです。実現も見えてきているような技術です、携われるのは技術者として本当に幸せだと思っています。ダイバータのフルタングステン化もQSTや国内の先生方が研究してきた結果なので、こうした先生方の思いも感じながら、オールジャパンで少しでもいいものができるように貢献していきたいです。

新井氏 こうした大きなプロジェクトですが計画が遅れていたこともあり、私が退社するまでにちゃんと形になるのかと思っていましたが、実際にスケジュールが見えてきています。最終的にはそれが動いていくところを自分で見られるのは非常に大きなやりがいになっています。年を取ったらあれは『うちの会社がやった。俺もやった』といえるのは大きいことかなと思っています。

 

大森氏 私ががんばってつくった製品が、超伝導核融合実験装置「JTー60SA」への納品とか、あるいは資料などで見るイーターに組み込まれる、と思うと感慨深いものがあります。自分はもともと生物学の出身で核融合とはなんぞやというところから始まったのですが、知的好奇心を満たせる分野としてもやりがいを感じています。

福田氏 ダイバータはこれからいよいよ実機製作のフェーズに入っていきます。プロトタイプ製作のフェーズとはまた異なる壁、例えば材料や機器の量産、品質管理等の課題解決が必要になってくると考えており、今後も皆様のご協力を得ながら着実に調達を進めていきたいと思っています。また、イーターの次の段階では核融合エネルギーによる発電を実証することが求められますが、その段階でもイーターで経験を積んでいただいた各社のご協力が必要になると思います。今後も宜しくお願いいたします。

司会 本日は貴重かつ夢のあるお話をどうもありがとうございました。

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