受発注マッチングサービスのアイミツがあえて「人の力」を強みにする理由
さまざまな業界で普及するマッチングサービス。AIやチャットボットを導入しマッチングを自動化しつつ、確度を上げる取り組みなどを各社が進めている。ここにあえて人手を介在させ、顧客の満足度を高めているのが、企業間受発注マッチングサービスの「アイミツ」だ。 同サービスでは顧客が自ら検索できるデータベースを用意しているものの、発注者のほとんどが電話やメールでコンシェルジュが発注サポートをするサービスを利用している。「チャットボットやAI導入が進んでいるが、(人が案件相談に乗るという)コンシェルジュを置くことが今考えられる最善のソリューションだ」―。アイミツを運営するユニラボ(東京都品川区)の栗山規夫代表取締役CEOは強調する。
チャットボットだけでは難しい
同サービスの強みはホームページ制作やシステム開発など91カテゴリーの案件に関する受発注が一括で実行できる点だ。発注者はアイミツ内の検索ツールからデータベースに登録されている企業を検索でき、見積もり依頼や問い合わせがスムーズに行える。
しかし、アイミツを利用する発注者には、発注案件の内容に不案内だったり、本業の傍らでサブ業務的に発注したりするケースも多い。発注内容がどのカテゴリーに属するのか、検索ワードすら思いつかない―。そのような場合に活躍しているのがコンシェルジュだ。アイミツでは無料でコンシェルジュに相談が可能で、前述のように発注内容が不明瞭な場合でもヒアリング項目に従って回答するだけで依頼が可能。最短で翌日までに業者の選定や見積書を受け取ることができる。「案件についての相談はチャットボットを用いて不可能ではないが、アイミツでは発注内容が多岐にわたることもあり、それだけで完結することは難しい」と栗山CEOは話す。
同社ではさらに2021年4月にSaaS型の受発注システム「アイミツCLOUD」を開始。発注者が自ら検索できる機能を拡充し、ローンチ時にはサポートもAIやチャットボットのみで完結させることを想定していたが、リリースから半年経過した現在、約4割程度がコンシェルジュを利用している。コンシェルジュへのニーズの強さを実感し、22年1月より、発注企業1社につき担当コンシェルジュがつく制度を開始した。
しかし、「人に頼った仕事」は人材育成の難しさが付きまとうほか、人手不足の昨今では人的リソースに限界があるなど、問題も多いように思える。アイミツではこの課題を乗り越えるため、コンシェルジュの仕事を「誰にでもできるような形式」に落とし込んだ研修を行った上で、内容のブラッシュアップを繰り返している。これにより約40カテゴリーの発注案件を15人のコンシェルジュだけで対応するという体制を構築している。
ヒアリング項目が財産に
新人コンシェルジュはまず、カスタマーサクセスやサービスの仕組みなどの基礎を学んだ後、同サービスで扱うカテゴリー一つひとつの市場や用語、受発注の工程などを覚えていく。そしてコンシェルジュサービスの要になっているのが、カテゴリーごとに作成した「ヒアリング項目」だ。それぞれのカテゴリーで発注時に必要な項目が体系化されており、例えばホームページ開発では、制作目的やユーザーのターゲットなど40項目ほどのヒアリング項目がある。カテゴリーによっては専門企業とともに項目を作成している。この項目が確立していることで、誰でもコンシェルジュ業務が行えるようになっている。研修を経て3カ月かけて約40カテゴリーのヒアリングができるようになると、基礎レベルの研修は終了となる。
しかし、コンシェルジュの存在が特に発揮されるのは「項目に沿ったヒアリング」以外の部分にあるともいえる。コンシェルジュの研修を担当するアイミツ事業部コンシェルジュの中村圭氏は「お客様の発注の後押しができるのが、私たちコンシェルジュの入る意義。それを意識すると、予算、納期などヒアリングの内容も案件に即して変えていくことが求められる」と話す。そのためにも、言い回しや言葉のニュアンスの改善、スクリプトの更新は常に行っている。
ニッチな案件にも対応
特にコンシェルジュの対応力が試されるのが「どのカテゴリに属すか分からない」案件だ。アイミツCLOUDでは「クイックリサーチ」という初期調査から一括して行うサービスがあり、コンシェルジュがヒアリング内容をもとに調査、見積もり請求まで行う。ここにはニッチな内容かつ、「この地域限定で」「この期間で」など、限定条件が付いたものが多い日には十数件も寄せられる。アイミツのデータベースに該当企業がなければ、そのほかの企業に対してもリサーチを広げる。
社内状況や前提条件が分かっているコンシェルジュに相談したい、とリピーターにつながる例も多いという。そのため、コンシェルジュの人材定着はアイミツの要の一つでもある。研修に加え、コンシェルジュのチーム醸成、信頼関係の構築に注力している。発注者と接する機会が多い点を重視し、コンシェルジュから上がってきた意見は短いスパンで対応・改善することで参画意識を高めている。コンシェルジュの仕事は単調なコールセンター業務に近いイメージを持たれがちだが、「案件ごとに異なる対応が求められ、その分知識も増えて刺激が多い。それを楽しんでくれるメンバーが活躍しているため定着率は高い」(中村氏)。
同社は受発注のインフラをつくるサービスを目指している。取り扱いカテゴリーの拡大や受注企業データベースの拡充とともに、コンシェルジュの強化にも一層力を入れる計画だ。「当社のサービスが『ご用聞き』のようになり企業に入り込むことで、発注前からニーズを探ることなどにも取り組んでいきたいと考えている」(栗山CEO)。システム化と人の柔軟な対応力を生かし、規模拡大に挑んでいる。
(写真撮影時以外マスク着用)