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VWの排ガス不正を見つめながら、デンソーのディーゼル技術が着々進化中

「噴射精度」と「噴霧の質追求」ーコモンレールに2つの新機軸
VWの排ガス不正を見つめながら、デンソーのディーゼル技術が着々進化中

コモンレールシステムと石塚氏

 ディーゼルエンジンで、高圧にした燃料をタイミングよく適切な量を各気筒に噴射するコモンレールシステム。デンソーは世界最高の2500気圧システムを商品化、3000気圧を開発するなど、高圧化競争で世界をリードしてきた。だが、「高圧化とは違う新機軸が必要になった」(石塚康治パワトレインシステム開発部システム先行第4開発室長)と壁にぶつかった。

 高圧化すれば排ガス浄化や燃費の性能は上がるものの、エンジン強度の制約上から高圧化には限界があったためだ。このため打ち出したのが「噴射の精度」と「噴霧の質」という二つの新機軸だった。

 噴射の精度に取り組み2012年に実用化したのが、噴射精度を保証する「i―ART」。インジェクターに内蔵した圧力センサーで、毎秒何百回すべての噴射を測定する。経年劣化などによる噴射量やタイミングのズレを10万分の1秒の精度で補正する。

 開発には「とてつもないハードル」(石塚室長)が立ちはだかった。センサーは電子、インジェクターは機械と、異なる分野の技術者が一緒に取り組まなければならなかったからだ。

 お互いのことはほぼ知らない状態。技術者が一堂に会して議論する大部屋活動を設け、一から勉強し合った。「時にはケンカしながら」(同)大部屋活動を毎週半日ずつ5年間続け、開発を成功させた。

 噴霧の質を高めたのは「CDSノズル」だ。14年にマツダの小型車「デミオ」に採用された。直径0・1ミリメートルの噴射ノズルの先端部を同0・5ミリメートルに広げる「ざぐり形状」(同)にした。噴射の距離や広がりが変わり、燃焼の重心が燃焼室のより真ん中に移ることで効率が上がる。

 困難を極めたのは加工だ。ざぐり形状部分と0・1ミリメートル部分の中心軸が、わずかでもずれると噴霧は乱れ性能が大きく落ちてしまう。専用の加工機を内製し、精度の確保を実現した。デンソーは「高圧化」「噴射の精度」「噴霧の質」の三つの軸をメーカーや規制などに合わせて自在に組み合わせ、最適なシステムとして提供する。
(文=名古屋・伊藤研二)

 ※同技術は「第6回ものづくり日本大賞」(政府主催)で内閣総理大臣賞を受賞
日刊工業新聞2015年12月25日 自動車
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
コモンレールは機械と電子技術の融合が最も求められる自動車部品。デンソーはルネサスに出資するなどトヨタグループの電子化をリードしてきた。去年までコモンレールのシェアはボッシュが5割、デンソーが2割だったが、今年はどのように変化したか。

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