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出口見えぬガソリン高騰、初の「激変緩和措置」に実効性はあるか

出口見えぬガソリン高騰、初の「激変緩和措置」に実効性はあるか

ガソリン価格は1ℓ=170円を超えた

政府は25日、レギュラーガソリンの店頭価格が1リットル当たり170円を超えたとし、ガソリンや灯油など燃料価格の抑制策を初めて発動することを明らかにした。萩生田光一経済産業相は同日の閣議後会見で、24日時点のガソリン価格が全国平均で170・2円になるとの見通しを表明。約13年ぶりの高値水準となる。原料となる原油相場も高止まっており、抑制策は企業収益や家計への影響を抑えられるか。実効性が問われる。(冨井哲雄、編集委員・板崎英士、田中明夫、孝志勇輔)

【あくまで緊急避難】急激な値上がり抑える

ガソリン価格がおよそ13年ぶりの高値となったことを受け、政府は燃料価格の激変緩和措置を実行に移す。経済産業省・資源エネルギー庁は25日、レギュラーガソリンの店頭価格が緩和措置の発動価格である1リットル当たり170円を上回ったことを受け、燃料価格の急騰を抑える緩和措置の発動を公表。27日以降、ガソリン価格上昇抑制の原資として1リットル当たり3・4円を石油元売り事業者などに支給し、小売価格の上昇抑制につなげる。これにより、来週のガソリン価格は170円を見込む。

萩生田経産相は25日の閣議後会見で「石油価格には地域差があるが、卸価格を抑えられれば各地域で石油製品価格の急激な値上がりも抑制できる」と説明した。

今回の措置は原油価格の高騰による経済への圧迫を緩和する時限的・緊急避難的なもの。ガソリンのほか、軽油、灯油、重油も対象となる。措置事業にはENEOSや出光興産などの元売り事業者や輸入業者など29社が参加している。

元売り事業者が決める卸価格は油種の原料である「原油コスト」と連動しているため、支給額の算定には原油コストの上昇分を反映する。具体的には、ガソリン小売価格の全国平均が発動基準価格である170円の超過分0・2円に、1週間前の原油コスト62・6円から2週間前の原油コスト59・4円の差分3・2円を足した3・4円を支給単価とする。

翌週以降は、ガソリン小売価格の全国平均と前週の支給額の和が、発動基準価格である170円以上になった時に措置を発動する。支給単価の上限は5円に設定した。27日の支給から4週間の発動基準価格は170円。その後、4週間ごとに発動基準価格を1円引き上げる。期限は3月末までとする。

原油価格の高騰は自動車用ガソリンや暖房などを利用する市民生活を直撃する。政府はこうした事態を重く受け止め急ピッチで措置の準備を進め、エネ庁は21年12月に激変緩和措置の概要を公表した。 

【元売り「歓迎」も…】販売店・消費者、効果薄く

石油業界は激変緩和措置について「基本的には歓迎」とし、元売り各社とも補助金全額を卸価格に反映させる方針だ。だが、小売価格にどこまで反映されるか、消費者に制度の趣旨が正しく伝わるか、この2点を懸念している。石油連盟の杉森務会長(ENEOSホールディングス会長)は24日の会見で「最初の発動が肝心。消費者に誤解を与え、店頭が混乱しないよう経産省には丁寧な説明を求める」とした。

卸価格が下がっても小売価格は販売店が決めるため、元売りは関与できない。制度の趣旨は急激な値上がりを防ぐためのもので、小売価格の値下げを促したり、全国一律で170円以下に抑えたりする政策ではない。元売り各社は「ガソリン価格は油価連動だが、輸送コスト差やガソリンスタンド(SS)の仕入れ時期、在庫量などでバラつきが出る。理論値の価格になるとは限らない」とする。

激変緩和措置は、急激な値上がりを抑えるためのもので、小売価格の値下げを促すものではない

25日朝、レギュラーガソリン1リットル当たり165円の看板を掲げる川崎市のSSの店長は「他店の値付けは気になる」としつつ、「大半の顧客は1円2円の違いで文句は言わないだろうし、効果もわからない」と通常通りの対応をする考えだ。

【原油高値は続く】地政学リスク浮上

年明けに原油の国際相場が約7年3カ月ぶりの水準まで上昇したことに加え、為替が一時約5年ぶりの水準まで円安が進み、国内のガソリン価格に上昇圧力がかかっている。市場では、新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」の重症化リスクは低いとの見方が広がり、原油需要は回復基調を維持するとの観測が相場の支えとなっている。

直近ではさらに、ウクライナ情勢をめぐるロシアへの経済制裁の発動懸念や、親イラン武装組織とサウジアラビア連合軍の間での攻撃の応酬など地政学リスクも加わり、相場上昇に拍車がかかった。ニューヨーク市場の米国産標準油種(WTI)先物は前週、14年10月以来の高値となる87ドル台を一時付けた。

当面、原油相場は高値を維持しやすい環境が続きそうだ。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどでつくる「OPECプラス」が、協調減産を段階的に縮小することは相場の圧迫材料となるが、「OPECプラスは相場下振れ時に生産量を調整して相場を支えてくる」(国内石油元売り)との見方は少なくない。

また、新型コロナの経口薬の普及などオミクロン株への対策が広がれば、行動制限の緩和などに伴い輸送燃料需要などが回復基調を強める展開も想定される。OPECプラスの増産が上値を抑えるものの需給緩和は限定され、原油高を映してガソリン価格が高止まりする可能性もある。

日刊工業新聞2022年1月26日記事から一部抜粋

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