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ソニー・楽天出身者が考える、企業とNPOの適切な関係

持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献しようと、売上高の一部を民間非営利団体(NPO)に寄付する企業が増えている。企業は本業と連動して社会課題解決を支援できるが、NPOとの距離をさらに縮めることはできないのか。NPOと企業の両方に勤務経験がある筒井隆司氏(63、元ソニー)、真々部貴之氏(38、元楽天)の両者に絆の深め方を聞いた。(編集委員・松木喬)

日本ノハム協会 専務理事・筒井隆司氏「本業との関連重視を」

筒井氏はソニーのブラジル法人社長などを経て2015年、世界自然保護基金(WWF)ジャパン事務局長に就いた。今は中小企業のSDGsを支援する日本ノハム協会の専務理事。

―ソニーからWWFジャパンに転じた経緯は。
 「ソニーの人員整理に区切りがつき、会社も変わろうとしていた。私も引き際と思っていたらヘッドハンティング会社や社内からWWFを紹介された。環境は素人だが、WWFジャパンの徳川恒孝会長(当時)に『環境は人並みで十分』と言われた。娘たちにも背中を押されて転職を決めた」

―WWFジャパンの印象は。
 「人材の多様性に富んでいた。博士号や弁護士資格を持つ職員がいて、性格の良い方が多かった。職員の情熱を受け止め、活性化できる場づくりが私の仕事と感じた。財務や労務など管理面に課題があったので、改善に取り組んだ」

―企業に望むNPOとの付き合い方は。
 「企業には本業に関連した社会貢献に真っ正面から取り組んでほしい。NPOに資金を提供するにしても、共同プログラムをつくるべきだ。資金が本業に関連した分野にどう役立つのか、シナリオにこだわってほしい」

日本ノハム協会 専務理事・筒井隆司氏

―企業からNPOへの寄付が増えています。
 「寄付で終わりではなく、NPOの活動現場を確認するような緊張感も持つべきだ。NPOも間違うことがあり、企業は失敗を受け入れる度量も必要だろう」

―中小企業への助言は。
 「中小企業はCSR担当者がいないと悩む。それなら、NPOと付き合ってみてはどうか。対話すると気付きがある。社会に必要とされる会社に変容し、社会課題解決に直結する新市場に進出するヒントを得られる」

大阪大学 社会ソリューションイニシアティブ招聘研究員・真々部貴之氏「方向性すり合わせを」

真々部氏は自然保護のNPO「知床財団」からシンクタンク、楽天へと転職。現在は大阪大学社会ソリューションイニシアティブ招聘研究員。

―NPOと企業の関係は。
 「資金をもらう側とあげる側になっていると思う。本当のパートナーになることが大事だと常に考えていた」

―本当のパートナーとは。
 「対等であり、お互いの持ち物を出し合い、新しい価値をつくる関係だ。いま企業は社会貢献を求められており、NPOと共有できる目的があるはずだ。私はNPO時代、どうしたら企業に支援してもらえるかばかりを考えていた。NPOは自分たちの活動は社会的意義があると信じているが、企業にとっての意義を考えていたかというと反省点がある」

大阪大学 社会ソリューションイニシアティブ招聘研究員・真々部貴之氏

―楽天ではNPOと接する立場でした。
 「NPOから提案を受けても、方向性をすり合わせる会話がなかった。NPOも企業に興味があるように思えなかった。お互いが生みだす社会価値を深いレベルで一致させ、何をするべきかを検討すべきだ」

―企業の課題は。
 「ビジネスを通じた課題解決が大事というが、NPOと目的が合致していたらフィランソロピー(寄付)でも良いのでは。ビジネスが本当に社会に価値を生むのか断定できないし、社会貢献はまねごとでは困る。だが、納得しないで資金を出してはもったいない」

―関係性を深めるには。
 「人材の流動性が高まってほしい。欧米企業にはNPO出身のサステナビリティー担当役員が多いが、日本には企業に人材を輩出できるNPOが少ない。一方、NPOでの研修制度を持つ企業はあるが、“お客さん”では社会貢献の当事者にはなれない。本気なら課題の現場を見て自社は何ができるかを真剣に考えるはずだ」

日刊工業新聞2022年1月7日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
NPOと企業の両方の経験がある方のインタビューは説得力がありました。眞々部さんが話していたようにNPO出身の役員が誕生してほしいです。「環境は人並み」で筒井さんはWWFに転じました。これも人材交流でしょう。また筒井さんが指摘したように、もっと企業もNPOの活動の現場を見ることも必要と思いました。

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