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再エネを地域の利益にできるか。脱炭素が自治体に問う「将来像」

再エネを地域の利益にできるか。脱炭素が自治体に問う「将来像」

地方は豊富な再生エネを都市部に売ることで外貨”を獲得できるチャンスが生まれる

再生可能エネルギーがあります―。北海道は16日、都内で企業誘致セミナーを開き、風力発電や太陽光などの再生エネが地域に豊富にあり、立地する企業の脱炭素化に貢献できると訴えた。地域資源である再生エネが企業誘致のPR材料になった。いま全国で再生エネを地域の利益に変える振興策が始まろうとしている。政府が6月に策定した「地域脱炭素ロードマップ」が2022年度から始動すると、その動きに拍車がかかる。

自治体間での再生エネ融通も各地に広がっている。京都市は9月、福島県会津若松市から風力発電設備で発電した再生エネ電気を供給してもらう連携協定を結んだ。京都市は家庭や企業から購入者を募り、まとめて調達してコストを下げる。横浜市も会津若松市や青森県横浜町など東北13市町村から再生エネ電気を調達し、市内の企業が利用する。東京都世田谷区も青森県弘前市などから送ってもらっている。

人口が集中する都市部は電力消費量は多いが、発電設備を設置できる敷地が少なく脱炭素は容易ではない。一方、地方は豊富な再生エネを都市部に売って“外貨”を獲得できるチャンスだ。

再生エネで住民の電気を賄い、地域外に支払う燃料費を減らし、地域のために使う資金を増やす―。地域脱炭素ロードマップに描かれた将来像だ。この工程表が22年度から実行に移る。政府は30年度までに家庭や企業の二酸化炭素(CO2)排出ゼロを達成する「脱炭素先行地域」を100カ所選び、政策総動員で支援する。

環境省は「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」を創設するため22年度予算の概算要求に200億円を計上した。先行100地域が再生エネ発電や蓄電池、省エネ設備を導入する費用の最大75%を補助する。自治体が継続的に事業に取り組めるように交付金は30年度まで続ける。

地域支援を手がけるサステナブル経営推進機構(東京都千代田区)の壁谷武久専務理事は「脱炭素と言われても何をしてよいのか分からず、ソワソワしている」と自治体職員の心情を代弁する。500近い自治体が排出ゼロを目指すと宣言しているが、多くの市町村は具体策を検討できていなかった。そこに交付金が登場し、道筋が見えた。しかし「交付金目当てなら今までの補助金と変わらない。再生エネが街の将来とどう結び付くのか、考えてほしい」(壁谷氏)と助言する。

設備投資のおかげでCO2が減っても、住民が恩恵を受ける将来像がないと効果は一過性で終わる。「国全体の排出ゼロ達成を『50年まで』と期限を切った意義が大きい。自治体も数年先ではなく、30年先に目を向けて街づくりを考えられる」(同)と期待する。

もちろんエネルギー政策だけが将来像ではない。地域課題とセットにした環境・エネルギー政策の議論が求められる。再生エネで得た利益を福祉や防災、産業などの課題解決に充てる分野横断の発想が必要だ。同機構事業推進室の乾大樹主査は「献立を考えてから買い物に行くのと同じ。再生エネは地域課題を解決する手段。再生エネをどこに売り、利益を何に使うのか。出口論が大事だ」と指摘する。脱炭素は地域に「将来像」を問う宿題を突きつけた。明確な回答を出せた地域が持続可能になる。

インタビュー/環境事務次官・中井徳太郎氏 脱炭素先行地域に交付金

脱炭素の波に自治体はどう立ち向かえばいいのか。地域の脱炭素化を推進する環境省の中井徳太郎事務次官に地域脱炭素ロードマップに込めた思いを聞いた。(編集委員・松木喬)

―ロードマップを作った背景を教えて下さい。
 「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けて社会が大変革するのだから国民や自治体、産業界が共有できる絵姿が必要だろう。産業界にはグリーン成長戦略がある。国民に暮らしや地域視点から政策を伝えるためにロードマップを作った」

環境事務次官・中井徳太郎氏

―先行100地域への期待は。
 「自治体と金融機関が“ツインターボエンジン”。地域の情報センターであり公的資金の結節点である自治体と、民間資金のハブである金融機関がけん引してほしい。政府は交付金で先行地域を重点支援する。農村や住宅地、都市などのモデルを作り、“脱炭素ドミノ”を起こしたい」

―交付金目当てにはならないですか。
 「地域を良くしてもらうことが大事。また、脱炭素移行のための交付金であり、再生エネ一本足打法でもない。焼却炉が老朽化したから単に建て替えるという発想ではなく、例えばゴミをエネルギーや肥料に変えると地域の新たな収入になる。地域資源を活用した課題の解決を求めたい」

―脱炭素は環境政策と思っている自治体が多いのでは。
 「『それは違う』と強く言っていかないといけない。エネルギーの断面で見れば脱炭素化への取り組みだが、持続可能な開発目標(SDGs)が提唱するように環境と経済、社会を調和させて地域を健康にする『地域循環共生圏』が将来の地域像。再生エネを地域で使えば域外に流出する光熱費が減り、地元にお金が回って地域の雇用にもなる」

―国内総生産(GDP)を指標とした地域活性化とは違いますか。
「お金だけに着目せず、地域が健康体で豊かさを実感できる状況に変える。地域が主体性を持ってポテンシャルを開花させるイメージだ。『何もない』ではなく『ある』という発想に立ち戻る。いまは、価値軸という幹を立てる局面だ。それは脱炭素、循環経済、分散型社会の三つの観点にも立つものである。幹がしっかりしていると葉が茂り、安定した木が育つ。価値軸に向けて資金を流し、地域の経済や社会を変える」

日刊工業新聞2021年12月24日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
いろいろな視点から地域に目が向いている時代です。再生エネで稼いだお金で空き家対策、福祉、防災、教育などの地域のために使う。脱炭素・再生エネ活用は日本全体の取り組みですが、地域ごとに推進すると新しい街をつくれる予感がしてきます。里山資本主義は共感はされましたが、真庭、西粟倉のような街が次々と生まれたとは限りません。今回のロードマップでモデル都市がもっと増えてほしいです。日刊工業新聞では2022年の注目制度を3週にわたって連載しました。来年も鮮度の高い情報を発信したいです。

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